ピアノが弾き出す感情
小さいころからピアノは私の混沌とした感情を受けとめてくれる楽器だった。内に秘めた言葉にならない気持ちをすべて音として放出してくれる。思えば、私という人間を一番よく理解してくれていたのは、リビングから両の手で弾き出した私の分身をキッチンで料理をしながら耳にしていた母だった。
そんなことを、日食なつこさんの曲を聴きながら思い返していた。
多くの曲がピアノとドラムの構成でシンプルだ。だが、そのピアノの旋律は大雪の中で鋭く輝くつららのように美しい。冬の寒さのように身体の芯に直に刺さってくる1つ1つの音から、いろんな感情が私の中に流れ込む。悲しいわけでもない、辛いわけでもない、寂しいわけでもない、でも涙が流れるほどの激しい感情がいまの私にはあることを肌で感じる。
コロナ禍で電子ピアノがものすごく売れているというニュースをすこし前に見かけた。みんなきっと心の中に溢れかえっている言葉にならない感情を叫びたいのかもしれない。
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