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それでもフリーランスになってよかったと思うこと。

こういう社会情勢になると、会社員はいいなぁ、と思ってしまう。でも、フリーランスという一見リスクが大きいように見える働き方が、実はもっと大きなリスクを避けているように思う。あくまでも、私にとっては、だけど。


仕事柄、様々な企業へうかがう。大手の企業が多い。研修の冒頭には、いつも軽く私の自己紹介をする。この仕事を始めた8年前は、前職や趣味に触れて、今は研修講師をしています、とだけ言っていたのだが、今は堂々と「フリーランスです」と身分を明かすようにしている。

働き方の多様化を積極的に推進する企業も増えてきた上に、会社員である受講生達も、「生涯を通して、一つの会社で勤めあげる」というキャリア観など、もはや持っていない。そんな時代において、「フリーランス」という私の生き方は、私が提供するコンテンツの一部なのだ。

若手の受講生は、休み時間中に「フリーランスなんて、かっこいいですね!」「どうやってなったんですか?」と、声をかけてくる人も多い。私と同世代の40代以上の方々となると、ちょっと別の星の生き物を見るような目を向けられる事もある。当然個人差もあるだろうが、業界や組織の規模によっても反応は異なり、なかなか興味深い。


最近、会社員の方から個人的に相談を受ける機会も増えた。「フリーランスに興味があるが、食べていけるか不安である」という話だ。そういう時は、ほぼ毎回と言って良い位「まあ、あまりオススメしませんね」と答える事にしている。もう少し言うならば、「額面は良く見えますが、税金や将来の備え等を考えると、相当稼がないと会社員と同様の収入に該当しないですよ。」と補足する。

相手は、「やっぱり、そうなんですね、、、。」と言って、そこで話が終わる。

その程度の気持ちなら、会社員でいた方が良いと思う。本当に。全くオススメしない。だって大変だし、リスク大だし。(今回みたいな時にそれを実感する)

それでも興味があるというのであれば、勿論、私には先の答えがある。「でも、自分のスキルに自信があって、それを磨き続ける覚悟があるのなら、世の中のニーズを見ながら変化し続ける覚悟があるなら、やる価値はありますよ。」


よく言われるのは、フリーランスは会社員と比べてストレスが少なそう、という事。これは、私の場合、3割Yesで、7割Noだと思う。ストレスが少ない理由で大きいのは、やはり時間の使い方を選びやすい事だろうか。

在宅でできる仕事ではないので、パソコン一つでいつでもどこでも、とはいかないが、先の予定であれば、予めブロックしてまとまった休みも取れる。昨年も1ヶ月仕事を休んで海外で過ごした。

これだけ言うと、やっぱり自由な感じがするかもしれないが、実際はそうでもない。私は平日を中心に、1ヶ月10日程度は外に出て研修をする。それ以外は顧客やパートナーとの打ち合わせや、準備等の自宅作業である。常に新しい情報をインプット、スキルアップ等の勉強、ネットワーク作りも必要だ。となると、週末含め、常に何かしら仕事と関連した活動を行なっている。特にインプットについては、これで十分という事は無いので、エンドレスな作業である。

当然、人間関係のストレスも伴う。会社員時代は、誰かと多少もめても仕事は絶え間なく与えられた。フリーになってからは、相手方と関係性が悪くなったら仕事はなくなる。勿論、プロとして、仕事の質に関する事は強く主張する。が、条件面は最後はこちらが折れる事が多い。それ以外にも、嫌な事があった時、ぐっと飲み込む事は会社員の時よりも、むしろ増えたと思う。(ただ、どうしても嫌な時に、この仕事は受けないという選択肢があると思うと、少しだけ気がラクな事もある)


こうして書いてみると、自分でも、大人になったなぁ、と思う。

そう、フリーランスに求められる要素は色々あるのだろうが、一定の仕事のスキルに加え、大人であること、のような気がする。

あとは、変化に敏感であることだろうか。


私が独立してからの8年間で、世の中のニーズも少しずつ変化した。私は、人材育成コンサルタントという箱の中で、複数の仕事やチャネルを持っている。このポートフォーリオも、少しずつ変化させてきた。今回のコロナの影響でまた少し修正が必要になるが、もう少し様子を見てから動こうと思っている。

もし、私が会社員だったら、会社の外で起きている変化に対し、ここまで敏感にならなかったと思う。なぜなら、それは私じゃない誰かがやってくれていたからだ。仕事は好きだったけど、会社員時代の私の仕事の仕方は、与えられた機会に対して、がむしゃらに取り組んで結果を出す、というスタイルだった。

今は、自ら変化を感じ取って、機会を見出していかないといけない。もちろん、全てがうまくいくわけでは無く、トライアンドエラーの繰り返しなのだが、それをやる事は、今の立場上、当たり前だ。

もしかしたら、この先、研修講師という職業が世の中から無くなって、将来私も全然違う仕事をしているかもしれない。だからこそ、自分の持っている強みを活かしながらも、アウトプットする手段やスタイルは、常に模索している。そうした5年後、10年後、20年後といった未来を想定して戦略を立てる事も、仕事の一部だと思っている。

実を言うと、私は、フリーランスになってからの方が、未来への希望が増している。社会とか、会社組織とか、不確かな世界の中で、小さくても確かなものを自分の手で作っているという実感があるからだ。


そう、なんだかんだで、フリーランスになって良かったと思える私を支えているのは、自分を自分で育てているという、確かな手応えであり、多少の自信だ。これはフリーランスになって初めて得られた楽しさだ。


会社員で、今の安定した生活が永遠に続くと信じている人がいるとしたら、その人にとって、今の世の中リスクだらけである。もちろん、そんなリスクを一生体験せずに済む人もいるだろうが、それがどの業界なのか、どの職種なのか、という事を100%読み切れない以上、リスクはつきまとう。

私が会社員時代に、こういう事をちゃんと実感値として理解しながら、日々仕事をしていれば、会社を辞める事なく、きっともっと上手く、手堅く、安心して世の中を渡れただろうな、と思う。当時の自分は、今のままじゃダメだ、という漠然とした予感しかなかった。

今は、時代のせいか、情報が豊富にあるせいか、自分の置かれている状況を冷静に客観視できる、賢い人が多いように思う。組織だからこそできる様々な貴重な経験を積ませてもらえる会社(必ずしも大手とも限らない)に勤めながら、副業に向けての準備とかを着実にしている人を見ると、心の底から羨ましくなる。本当に。


最初の話に戻る。

「フリーランスなんてかっこいいですね!」と目を輝かして声をかけてくれる若い受講生の方に、私は心の中でこう言っている。

「仕事をする上で、この不確かな世の中を生きていく上で、大切な事は、会社員もフリーランスも実は変わらないよ。」


それでも、私はフリーランスが好きだけどね。

そう思わなきゃ、やっていられない。



とりのこ



本当は小説が書きたいです。