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架空小説「そういうところ」
ぼくの彼女は律儀な子です。
待ち合わせに遅刻してくることはまずないですし、ぼくがお会計をしたその次のお店では必ず伝票をかっさらっていきます。
その手つきたるや、まるで競技かるたの選手に見違えるほどです。
そして、どんな些細な物ごとや約束だって覚えていてくれます。
テレビを見ていたぼくが行きたいなぁと呟いた場所や折り目をつけた雑誌の特集。彼女の手にかかればぼく好みのトーストの焼き加減もばっちりで
架空小説「くらげの手触り」
彼女に触れる時、水面にふよふよと漂うくらげを掬い上げるような心地がした。
その瑞々しいやわらかさは言うまでもないが、ひとつひとつのパーツを欠けなく全て拾うためには細心の注意が要る。
少しでも余計な力を入れては彼女を壊してしまわぬよう僕はこわごわとしていた。
僕の指先が彼女の輪郭に触れる。
それだけで、途端に四肢の縫い目がほどけていくように彼女を構成するパーツが瓦解し、泡のようにぷかぷか浮かび上が