鍋太郎

考えや感性についての出力。暇つぶしに短い文章を投げます。

鍋太郎

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最近の記事

架空小説「そういうところ」

ぼくの彼女は律儀な子です。 待ち合わせに遅刻してくることはまずないですし、ぼくがお会計をしたその次のお店では必ず伝票をかっさらっていきます。 その手つきたるや、まるで競技かるたの選手に見違えるほどです。 そして、どんな些細な物ごとや約束だって覚えていてくれます。 テレビを見ていたぼくが行きたいなぁと呟いた場所や折り目をつけた雑誌の特集。彼女の手にかかればぼく好みのトーストの焼き加減もばっちりです。彼女よりもぼくのほうがぼくに疎い気さえします。 忙しい彼女に代わってその週

    • 架空小説「くらげの手触り」

      彼女に触れる時、水面にふよふよと漂うくらげを掬い上げるような心地がした。 その瑞々しいやわらかさは言うまでもないが、ひとつひとつのパーツを欠けなく全て拾うためには細心の注意が要る。 少しでも余計な力を入れては彼女を壊してしまわぬよう僕はこわごわとしていた。 僕の指先が彼女の輪郭に触れる。 それだけで、途端に四肢の縫い目がほどけていくように彼女を構成するパーツが瓦解し、泡のようにぷかぷか浮かび上がりながら分離していって、やがて彼女の面影なんてなくなって、後には何も残らない。

      • 余裕のなさがまろび出る

        余裕がない。 そう思う時は、だいたい誰かを傷つけた後だ。 お腹が空いているとか、夜更かしして睡眠不足だとか。 そういうことが重なると、人はとても危うい状態になる。 それは、単純にフィジカル・体力面としての危うさというのもある。 しかし、ここで肝心なのは付随するメンタル面での危うさであり、それはすなわち「余裕のなさ」と同義である。 例えば、あなたがご飯もろくに食べられずに三日も徹夜をしていたとしよう。 なんとか目をこじ開けて覚醒こそすれど立って歩けばふらふらだし、頭はもや

        • 好きなものへの態度の話

          好きなものなんですか。 そう言われて、挙げるものって様々です。 私もそれなりに好きだなぁと思うものがあります。 いわゆるオタクと言われる側ですので、好きな漫画やアニメ、ゲームもありますし、好きなアーティストやアイドルもいます。 新作をちゃんと買うくらい好きな小説家もいたり、見る習慣はないにせよ映画や映像作品も特定ジャンルならかなり前向きに視聴したりします。 昨今、人の好きを否定しない風潮がうっすらとあるように感じることがあります。 推し・推し活なんて言葉もここ数年でよく聞

        架空小説「そういうところ」

          文章について

          私は文章を書くことが嫌いではない。むしろ好き、と言える方だ。 今までの学生生活を省みても、周りの同級生たちと比べ文章を書くことに苦心した覚えは少なかったし、なにかしらの感想文なんかはむしろ進んで書いていたことが多かったように思う。 Twitter(現:X)なんかもそうで、日常の一端でしかない短い呟きから長文でこねくり回した自己認識や価値観まで、いろいろ文字として書き起こしてきた。 だからといって、書くことが得意なわけではなかった。 それをまざまざと知らしめられたのは、高

          文章について