架空小説「そういうところ」

ぼくの彼女は律儀な子です。

待ち合わせに遅刻してくることはまずないですし、ぼくがお会計をしたその次のお店では必ず伝票をかっさらっていきます。
その手つきたるや、まるで競技かるたの選手に見違えるほどです。

そして、どんな些細な物ごとや約束だって覚えていてくれます。
テレビを見ていたぼくが行きたいなぁと呟いた場所や折り目をつけた雑誌の特集。彼女の手にかかればぼく好みのトーストの焼き加減もばっちりです。彼女よりもぼくのほうがぼくに疎い気さえします。

忙しい彼女に代わってその週の家事当番を引き受けることがあります。
僕たちは二人で暮らしていてそれぞれが互いに仕事をしているので、こういうことは往々にしてあるのですが、彼女は必ずその次の当番を一手に引き受けるのです。
大抵、ぼくの方が代わったことを忘れてしまうので、うやむやにできるはずなのに彼女は自ら進んで申し出ます。
「筋は通さなきゃ」
カタギでないことを平気な顔して言うのが面白くて、好きだなぁと思います。

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