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『君が心をくれたから』はここからが勝負。ファンタジーな茶番月9なんて言わせない...!

何の味もしなかった。

自分なりに体調に合わせて作る一汁三菜の献立、しかも今夜は好物のハンバーグ定食なのに。

五感を失う主人公に感情移入するあまり同化してしまったのか、それとも涙に味覚を拐われたのか。

止まることを知らない涙に、私は動かし始めたばかりのお箸をそっと置き、いつしかこの世界の住人になっていた。

※以下ネタバレ注意※


(どちらにせよ後悔するのなら)
———今はすべてを魔法のせいにして
幸せな後悔をするべきだ———

フジテレビ『君が心をくれたから』5話より

想像もできないような先のことを計算して身を殺すより、今だけは幸せな選択をしてもいいんだよって…。なんて包容力のあるドラマなんだろう。

主人公を取り巻く環境がこんなにも残酷であるにも関わらず、なんとか耐えられているのは、このドラマそのものの温もりが私に"心をくれるから"だ———。


※X上で活用している動画は無断転載ではなく、引用利用です。



ハマれないかもなと思っていたファンタジー月9。沼落ちは突然に

"私はハマれないかもな"
そう風に勝手に思い込んでいた私は、そもそもこのドラマを観る予定ですらなかった。でも、私の今年の目標は勝手な思い込みで視野を狭めることなく、いろいろな作品に触れてみること。ここで、長い目で見て柔和で豊かな感性を磨きたいという心からの想いに立ち返らされる。

"とりあえず1話だけはね"
そう思って観た1話には、正直、どハマりはしなかった。ピュアラブストーリーかと思いきや、最後の最後で、愛する人の命を救う”奇跡”を起こすべく、主人公が徐々に五感を失う運命を背負うという、とんでもないファンタジー要素がぶち込まれてきたのだ。

"なんだかファンタジー要素が強いなあ。面白いのだけれども、この路線だとやっぱり離脱してしまうかもな…。” この時期の私はまだ、このドラマがくれる心をきちんと受け取ることができていなかった。

そんなこんなで、気づけば毎週観続けること1ヵ月。私を一気に沼底に突き落したのが、第5話『#魔法のせいにして』だった。

ファンタジー×ピュアっピュアラブストーリーを食わず嫌いしている人、全員集合。騙されたと思って、一旦5話まで観てほしい

恋愛だけじゃない。さまざまな愛の形が交差するあたたかい世界

一見、このドラマは、よくある若い2人の純愛を描いたピュアピュアラブストーリー。しかし、そこに広がるのはさまざまな形の愛情が交差する、ただただあたたかい世界だ。

幼馴染のまっすぐな愛、祖母の無性の愛、父の不器用な愛、母の少々身勝手な愛、自分よりも他人の幸せを願う切ない愛…。それぞれの登場人物がそれぞれの愛の形を体現する者として描かれている。

第5話では、ずっと2人で暮らしてきた雨ちゃんとばあちゃんとの深い絆が濃密に描かれていた。そして、完全にそれが私の涙腺崩壊&沼落ちの合図だった。

———ねえ、雨?
大人になると、苦しいことや悲しいことがたくさん起こるの。
でも、雨に”魔法”をかけてくれる人もきっと現れる。
だからそんなときは
遠慮せずに
”魔法”に助けてもらいなさいよ———

フジテレビ『君が心をくれたから』5話より

私自身も祖母に育てられた身。何を差し置いても宇宙一好きなのは祖母だと断言するほどの生粋のおばあちゃん子だ。

観れば観るほど、5話の2人の空気感は自分の思い出そのもののようで、私も祖母とこんな会話をしたことがあったような気さえしている。

思えば、なんだかんだでここまで観続けていたのは雨ちゃんのばあちゃんの存在が大きかったし、私が5話でこのドラマに沼落ちするのも必然だったのかもしれない。

きっと誰しもが、どれかしらの愛にグッと引きこまれる。どこかの話で沼落ちできる。そんなドラマだから気長に観てほしい。

五感でドラマを感じられる、秀逸な情景描写

マカロン味の2話に、マーガレットとクレープと花火がふわっと香る4話。そして、祖母とくっつきながら寝ていた十数年間を思い出させてくれたぬくぬくの5話。

五感を失っていく主人公を描く過程で、同作には観る者の五感をも刺激するような描写がところどころに散りばめられている。しかもその一つひとつは、主人公特有の思い出でありながら、視聴者にとっても容易に想起しやすい感覚ばかりなのだ。そこがまた、上手い。

この先、私はきっと、マカロンを口にするたびにあの海辺を、クレープの甘い匂いを感じるたびに太陽くんの制服についた生クリームを思い出す。

そして、マーガレットの香りは、いつだってあの切なくも嬉しかった観覧車へと導いてくれるような気がする。

こうしてこのドラマは、五感を伝い、私の過去にも未来にも介在してくるんだろうな。ずるい。いや、ずるすぎる。


このドラマはここから(6話から)が勝負なんだ、本当に

いろんな意味で、5話はこのストーリーの大きな転換点だった。ここからがこのドラマを決める運命の分かれ道だ。そう感じた。

ここから目にみえる障害をどう描いてゆくのか
やはり、一番はこれだろう。このドラマにおいて、徐々に主人公の五感が失われていくという要素は本当に大きい。

これまでは、味覚と嗅覚の喪失という、他者視点では気づきにくい変化にとどまっていた。しかし、次回は触覚、続いて、聴覚や視覚が失われていくことになる。

五感はいわば自分と外界とを繋ぐ架け橋。その全ての架け橋を奪われる雨ちゃんは、暗闇の中で独り、自分の心と向き合って生きてゆくほかない。

この未知の状況をどう表現していくのか。モノローグで心の声だけを抽出するのか、雨ちゃんの心の中がファンタジーな世界として描かれていくのか、はたまた、物語は急カーブを迎え、雨ちゃんが五感を失わずに済む世界が訪れるのか。

これは一番注目したいポイントである。

五感のことを知った太陽くんとの関係は
5話では、やっと太陽くんが雨ちゃんの五感のことを知ることになった。客観的には、”知られてしまった”というよりも、”知ってくれた”の気持ちの方が強い。けれど、想いが通い合ったからこそ、2人はたくさんの壁に直面していくことになる。

”今だけは幸せになっても良いんだよ”の”今だけは”が上手に回収されてしまわないことを願うばかりだ。

近づくばあちゃんの最期
"知られた”つながりでいえば、ばあちゃんが雨ちゃんに病気のことを知られてしまったのも5話だった。ばあちゃんの病気は急速に進行しているし、きっと残された時間も長くはない。ここで再び奇跡が起こるという可能性もあるけど、そううまいことはいかないのかな…。ばあちゃんの死が雨ちゃんの今後を左右する大きな決断のきっかけになるという方が、有力そうである。

心が垣間見えつつある案内人・日下さんのバックグラウンドと今後の動向は
私は、案内人の2人は、元々人間で、雨ちゃんのように奇跡を体現した人物だったという説を推したい。すでに五感の全てを失っており、心だけがあの非現実的な境界を浮遊しているという仮説を立てている。

千秋さんは元々雨ちゃんに入り込んでいたが、冷酷無慈悲の日下さんさえもが徐々に雨ちゃんに感情移入し始めているのは大きなポイントである。彼のバックグラウンドが明かされるのも割と近そうだ。

実際、案内人の日下さんがどれほどの権力を持っているのかわからないが、ぜひ慈悲の心をくれてほしい。

息を潜めていた母娘ストーリーが6話から再開しそう
6話の予告には、「戻りたい。この子の母親に」という雨ちゃんの母親の台詞がある。これまで、基本的に”雨ちゃんの過去の記憶”として存在していた母親だが、果たして、このタイミングでのこの願いは本当に叶うのか。過去の償いとして、娘の介護をやっていくのだろうか。

この母親の一言に対するそれぞれの反応も見どころだ。

書こうと思えばいくらでも書ける今後の注目ポイント。この作品の行く末を担う第6話『#声の手ざわり』の放送が待ちきれない。


『君が心をくれたから』の”君”は太陽くんなのか?タイトルに込められた真意とは

今のところ、このタイトルは”太陽くんが心を閉ざしていた雨ちゃんに愛情をくれた”と解釈するのが妥当だろう。

実際に、ばあちゃんが発した”雨はもう太陽くんから心をもらっている”というような台詞も、太陽くんが雨ちゃんに好意を抱いているという意味として捉えられそうだった。

しかし、タイトルの真意は本当にこれなのだろうか?

今後の描き方次第では、”五感を失った雨ちゃんが唯一太陽くんに捧げられるのは心だった”とも捉えられそうだし、”雨ちゃんが日下さんに人間の心を取り戻させる”ことで物語が大きく動きそうな気もしている。

一つひとつの伏線が懇切丁寧に回収されるドラマなだけに、タイトルの回収にも期待を膨らませてしまう。



兎にも角にも、雨ちゃんと太陽くんが一緒に幸せになれる未来はないものか。

そう願ってやまない視聴者は私だけではないはずだ。


———お願い、太陽くん。

目が見えなくなっても 

耳が聞こえなくなっても

味も匂いも感触も 

全部わからなくなっても


雨ちゃんのこと、好きでいて?

ずっとずっと”特別扱い”してあげて。 

 お願い———。


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