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「自閉症の僕が跳びはねる理由」を育児書にした日。

noteには本が好きな人がたくさんいる。感想文や解説文もいっぱいある。

ここ10年、子どもの本や夫のマンガはたくさん買っているけど、自分のために新品で買った本は片手で数えられるくらいしかない。

ひとつは水野仁輔さんの「はじめてのスパイスカレー

ひとつは Shaun Tan さんの「The Arrival

ひとつは「The Art of Instruction

そして東田直樹さんの「自閉症の僕が跳びはねる理由」。

今回は4冊目の東田さんの本に関する話。

*noteもされています

少し長いですが、この本を手に取ることになった前置きから話したいと思います。

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この本を買ったとき、長女は3歳8カ月。わたしは34歳で、半年前にシンガポールから帰ってきて、先月に次女出産。季節は冬。夫はオーストラリアにいて別居中。私たちは彼の義実家にお世話になりながら、再来月に控えた新生活をただただ待つだけの日々だった。

長女は毎朝、スクールバスに乗って保育園に通っていた。私と次女は6畳の寝室で一日のほとんどを過ごしていた。コンビニまでは歩いて一時間。文字通り、山の中にある義実家は冬になると雪も深く、車がないので用事がない限り、ずっと部屋の中にいた。

お義父さんは仕事で家におらず、お義母さんは週に2日ほどパートに出ていた。

義両親はとてもよくしてくれたと思う。毎日ごはんを用意してくれて、私がお願いしたシラスと納豆を、切らさず買ってきてくれた。(前回乳腺炎になった経験から食事は気をつけたかったが、まいにち「和食」を作ってもらうのは大変だと思ったので、脂っぽいおかず(揚げ物、カレーなど)の日は納豆とシラスを食べていた。ちゃんと理由も説明していたが、それでも呆れられている雰囲気はあった。)

出産後は、自分の部屋の掃除と洗濯はしていたが、それ以外はずっと子供の傍にいられた。

しかし子育てに関しては、何をするにしても”アドバイス”されるのがつらかった。話し相手のいない他人の家で、ゆるやかなプレッシャーを毎日感じながら過ごすうち、私は頭がおかしくなっていった。でも義両親とケンカをすれば、わたしは居場所がなくなってしまう。

あいかわらず長女とのコミュニケーションにも苦労していた。そして彼女自身も精神的に不安定な時期にあった。

初めて行く日本の保育園。他の子は小さいときから通っているからか、ルールをよく理解しており、3歳にしてすでに軍隊のように統率が取れていた。長女はふたりいるクラスの担任の、ちょっと感情の変化が激しい方の先生に目を付けられ、毎日怒られては保育園に行きたくないと泣いていた。(後にも先にも、保育園/学校に行きたくないと言っていたのはこの園だけだった。)親子参観の日ですら大勢の前で厳しく怒られていたので、普段の様子は想像に難くない。帰国後に喘息はひどくなり、痙攣、肌荒れ、おねしょが再発した。

こんな風に、私たち親子は余裕がなかった。関係性は最悪だった。

毎日毎日ちょっとしたことで長女を叱り、叱ったところで無反応な長女。前後もわからず口出ししてくるお義母さん。

なぜこの子は私の眼を見ず、話も聞かず、興味をひかれるがままに一貫性のない行動ばかりとるんだろう…。私を苦しめるために産まれてきたのか?

頭にずっと手がかかりすぎる娘にイライラして、常に頭にモヤがかかったような状態が続いていた。

インターネットで情報を探しても、子供に対して同じような悩みを持っている人は見つけられなかったし、お義母さんからおすすめの育児書があるから買って読めといわれても、受け流すだけで精いっぱいだった。

そんなとき、この本のことを知った。NHKで放送された番組のダイジェスト版を見て、長女は自閉症ではないが似たような行動をとる時があることと、自分の気持ちを伝えるのが難しい子供が、つまり彼女が、なにを考えているのか知りたいと思い、Amazonの購入ボタンを押した。

そして彼女の行動の謎の、答えがそこには書いてあった。

どうして何度言っても分からないのですか? 怒られてしまった時には、またやってしまったと後悔の気持ちでいっぱいですが、やっているときには前にしたことなどあまり思い浮かばずに、とにかく何かにせかされるようにそれをやらずにはいられないのです。<自閉症の僕が跳びはねる理由 page20より>

これを読んで、そうだったのか、とものすごく腑に落ちた。わかっていたんだ。でも体が動いてしまっていたんだ。怒られているとき、顔には出さないけれど後悔していたんだ。

どうして目を見て話さないのですか? 僕らが見ているものは、人の声なのです。(中略)聞き取ろうと真剣に耳をそばだてていると、何も見えなくなるのです。<自閉症の僕が跳びはねる理由 page11より>

「聞く」のと「返事をする」行為が別だと考えれば、一応「聞いて」くれていたんだな…。

衣服の調整は難しいですか? 例えば、暑くて倒れそうでも、暑いことは分かりますが、服を脱げばいいということを忘れてしまいます。<自閉症の僕が跳びはねる理由 page82より>

暑いのは分かっていて、でもどうしていいかわからなかったんだね。じゃあわかるようになるまで私が脱がせてあげてればいいんだ…。

他にもたくさん、できてあたりまえと思っていた自分の行動を、無意識に長女に期待していたことがすれ違いを生んでいたことに気付いた。

育児書を読まなくてよかった。きっとそこに出てくるサンプルの子供の性格と比べて、さらなる泥沼にはまっただろうから。

もちろん東田さんと長女は違う人間だ。ここに書いてあることが彼女にすべてあてはまるわけではない。本当のところは彼女がどんなことを考えているのか、聞いてもわからないだろう。

でもわたしとしての答えが出た。

彼女は一生懸命生きているのだから、私はそばで見守るだけだ。私と彼女の考えが違っても、大事な存在であるならば、二人の間の橋が壊れたりはずれたりしていても、行ったり来たりできるはずだ。流されそうになったら、手をつないで支えればいい。

東田さんの答えは一貫して、できるように頑張る。でもできないところは見守ってほしい、みんなの助けが必要だし最後まで手伝って欲しい。ということだった。難しいことは何もない。理解できないのが苦しかったから、彼女の中で理由があるなら、それを知ったうえで見守ればいいんだ。

長女とは現在はちゃんと話せるようになった。でも言語として理解しているつもりになっているだけで、もしかしたら長女自体気付いていないところで、本当の自分の気持ちを表現できていないことがあるかもしれない。39年も生きている自分ですら、正しく理解してもらうのが不可能だと感じるくらいなのだから。

最後に、一番大切なこと。

小さい子に言うような言葉使いの方が分かりやすいですか? 僕が言いたいのは、(中略)年齢相応の態度で接してほしいのです。(中略)本当の優しさというのは、相手の自尊心を傷つけないことだと思うのです。<自閉症の僕が跳びはねる理由 page22より>

私も自尊心を傷つけられるのは嫌だ。だから自分もそうしないように気を付けないといけない。「悪気がない」と言いながら、平気で人の自尊心を踏みつけようとしてくる人がいる。それは本当は、とてもよくないことだと思う。それを知ってほしい。

(といいながらも、自己肯定感おばけの夫の自尊心は、爪を切るように定期的にカットしている。伸ばしているとこちらが傷つくので。)

この本を読んだ後、少しずつ長女に合わせて過ごせるようになった。それと同時期に、泣きながら長女を叱る私の姿を見た義母は、(おそらく義父からの助言で)何も言わずに私に任せてくれるようになった。

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作者の東田さんとお母さんが何年も努力を重ねて生まれた文章たち。

ひとつひとつは長い文章ではありません。13歳の東田さんが、なるべく自分の気持ちが正確に伝わるように、絶対に必要な言葉を使って書いた文章です。敬意を表しつつ、ここで本を閉じたいと思います。

ありがとうございました。

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