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いやだからお前は私の彼氏なのかって~真面目人間のご自愛日記~

休職して1ヶ月経ったから、入社以来、私のことを1番お世話してくれていた先輩に、一旦連絡を入れておこうと思った。

お互い人見知りなので、入社当初はまったくコミュニケーションが取れていなかった。しかし、教育係だった先輩と会話をしなければ仕事が進まないどころか何もできない。先輩も最初は生意気な私のことが嫌いだったらしい。私も嫌いだったから、お互い様だ。でも仕方なく会話を続けていくと、私は先輩を社内で1番信頼するようになった。困った時は真っ先に相談し、頼るようになった。先輩は私のことを可愛がってくれたが、周りから見ると異常な可愛がり具合だったようで、「可愛がる」を通り越して「溺愛」と言われていた。

ご飯を奢ってくれたり、お菓子やスタバを買ってくれるという餌付けがほとんどだったが、たまにゲームソフトも買ってくれていた。年齢的には兄のような位置付けになるのが正しいと思うが、その諸々の言動は、私にとって親のように感じられた。というか、実の父より確実に私に甘い、と何年経っても思う。

ちなみに先輩は既婚者で子どももいる。巷で流行って(?)いるような、いかがわしい関係性では決してない。歳が近い男女といえど、そういうものが絶対起こってしまうということはない。

休職してから、先輩から連絡がくることは一切なかった。私が急に抜けて困ることもあったかと思うが、他の人からも業務に関する連絡は一切なかったし、今もきていない。仲の良かった同僚たちから「元気?」と心配して連絡がくることはあるが、先輩がちゃんと業務連絡はしないように言ってくれているのだろうと思うと、とても有り難い。先輩からは「大丈夫かー」という類の連絡もこない。たぶん、それも先輩なりの気遣いなのだと思う。日頃の振る舞いから、先輩に気遣いというものがあるのかは微妙なラインだが。忙しくてそんな暇がないだけなのか、溺愛していた割にいなくなったらなったで大丈夫になって何も思っていないだけなのかもしれないが。とにかく1回、現状報告というか、生きてますよ、という生存報告を入れておこうと思った。

先輩はとても忙しい人だ。
出張が多く、会社にいることもあまりない。会社にいたとしても、来客があったり、会議が入っていたりで常に忙しい。先輩が世間話を始める時は、だいたい集中力が切れただけであって、決して暇ではない。忙しいところに電話をかけるのは忍びないので、仲の良い同僚に先輩のスケジュールを確認してもらって、暇そうだというタイミングでかけた。が、その次の瞬間、先輩は社内のミーティングへ移動したらしい。社内の共有スケジュールには入っていなかったので、スパイをお願いした同僚もわかるはずがない。後輩の分際で何度正しいスケジュールの入力をお願いしても、事務的なところの改善が一切見られないのは相変わらずみたいだ。chatGPTは使いこなしているのに。先輩の線引きが謎だ。

15時頃にかけた電話の折り返しは、私がちょうど晩ご飯を食べ終わった20時半頃だった。出社した日の残業も、相変わらずのようだ。
「お疲れ様ですー、お元気ですかー」と私が言うと、先輩が第1声で返ってきたのがこれだった。

「そろそろ寂しくなったの?」

……え、彼氏?
何その台詞、あなた、私の彼氏なの?

こういう台詞って、喧嘩して彼女がプンスカしてて、彼女が落ち着くまでは連絡しないでおこうというスタンスの彼氏が、やっと冷静になって電話してきた彼女に向かって言う台詞なんじゃないの? で、彼女が「うん……ごめんね。会いたいよ……」とか言って、そこから仲直りするやつじゃないの?

もしくは、今まで会う頻度が高かったのに遠距離恋愛することになってしまって、3ヵ月が経過したぐらい(その期間ぜんぜん会っていない)のカップルが、電話でいつもの他愛のない会話をしていたのに彼女が急に黙り込んでしまって、その時に彼氏が言うような台詞なんじゃないの? で、彼女が「うん……寂しい……会いたいよ……」って言うやつじゃないの? で、翌週末に彼氏が彼女の住んでいるところまで急遽会いに来て再会するやつじゃないの?

ほら、どっちのシチュエーションでもこの時に彼氏が言う台詞って「そろそろ寂しくなったの?」か、もしくはその類の言葉なんじゃないの? え、違うの?

でも少なくとも、適応障害で休職中の後輩と、その先輩というシチュエーションで出てくる台詞ではないことは確かだ。甘くない。ぜんっっぜん甘くない。甘く聞こえない。スピードワゴンの井戸田もビックリなくらい、甘くない。甘くなーーーーーーーーーい!!!!! (井戸田)

甘くない判定をした私が返した台詞は「いや、ぜんっぜん寂しくないです」だった。そして「なんかすみません……」とも。

現に、友人とはほぼ毎日連絡を取り合っているし、週2で韓国在住の友人と2~3時間、ライティングを教えたり、韓国語を教えてもらったりしている。週末も、友人と会ったり、整体やドラムレッスンに行っている。休職し始めた当初は少し寂しい、というか、何をすれば……とわからずゴロゴロとして時間を持て余していたところはあるが、本当に全然寂しくないのだ。むしろ、申し訳ないほどに充実している。いや、申し訳なく思うことは一切ないのだけれど。

「あ、そうですか。まぁ元気そうなら良かった」という先輩の声は、激務からかとても死んだ声だった。仲の良い同僚と連絡を取っているのでわかってはいたが、やはり会社は私の休職前から何も変わっておらず、相変わらずみたいだ。私1人が潰れたところで、何かが変わるとも思っていなかったが。

復職か、退職か。

休職中の私に選べる選択肢は2つだ。どうしようかはもう決めているのだが、現在の会社には、今後も仲良くしていきたい先輩や同僚がたくさんいる。休職した当初は仲の良い同僚と連絡を頻繁に取り合うのも億劫だったが、最近はそれがなくなり、友人と同じように連絡を取り合っている。
先輩とも同じように、今後も連絡を取ったり、人として付き合っていきたいなと、私個人としては思っている。先輩は会社を辞めた後の私には興味がないかもしれないが、誰かを交えてでも良いから、ご飯とか行けたら嬉しいなと思う。せっかく仕事で全信頼を置ける人を見つけたのだ。
会社のことは嫌いだけれど、人との縁は大事にしたい。


●記事に出てきた先輩の、私に対する溺愛具合がわかる記事はこちら↓


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