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本よみ日記 旧市街のミッドナイトエクスプレス

つるつるのクッキーに挟まれたチョコは異常に分厚かった。ピンク色のクッキーとチョコを離すと、イチゴをイメージした匂いはイチゴから遠いものになっていた。

注文した本が届く。カタリココ文庫の『新しい自我』は堀江敏幸さんと大竹昭子さんの対談、堀江さんの詩とボツになったエッセイが載っている。堀江さんの作品を読んで感じていたよい頑固さや執着のようなものがしっかりと文字になっていた。端折ること、手を抜こうとする相手の気配に敏感で、そのような依頼に対しての堀江さんの引き受けかた、コミュニケーションの取りかたに目をみはる。作品からだけでは見えづらい、堀江さんの知らなかった一面が見え、こういう闘いかたがあるのかと感心した。自分に対してまじめでまっとう、いい意味でとても変わった人だった。

もう一冊はオルタナ旧市街さんの『一般』。散文集だが、長い短い関係なくずっーと読んでいられる、読んでいたい文章で、ただただ喜んでいる。旅行記、街のこと、死んでしまった人のこと。香港の旅行記にウォン・カーウァイの映画『恋する惑星』のロケ地に行ったとあり、たしか1900年代に友人と聖地巡礼に行ったことや自分の背丈よりも高い、ピラミッド状に積まれた鳥籠の写真をモノクロで焼いたことなどを思いだす。

『一般』の散文はあとがきまでもいいのだが、どれもいいと書くと堀江さんのを読んだこともあり、手を抜いてるようにも思えたので、特にいいと感じたものを書いておきたい。「街の灯」、「うつくしく混沌(雨傘について)」、「Retrospective」、「レヴェンワースの光、タイムズ・スクエアの花嫁」だった。

街がきれいに見えてしまった、というのは月並みすぎるのだけれど、確かにそう口走ったとしても、嘘ではなかったな。という夕景が代弁するように夜を連れてくる。

『街の灯』


台風後の「たまたま無事だった」じぶんの住む街。ふだんは空っぽになることがないスーパーの棚を、スイッチを押せばつく灯りを、雨風に震えず眠れることを、あたりまえと思わず、忘れないようにしたい。

蛍が飛びはじめたと聞き、暗くなるのを待って息子と見にいく。一匹がぼうっと光ると、テンポの遅いイルミネーションのようにあちらこちらで点滅した。今年は蛍が少ないらしい。草刈りが足りなかったのでは、と聞いた。草に限らずできることは手伝い、来年もぜひ飛んでくれたらいい。

蛍のカードはまだ見かけてないが、虫のカードバトルに息子がはまっている。穏やかな日曜の午後、なんとかルールを把握しはじめたわたしが勝ちそうな空気に息子が泣き叫ぶ。勘弁してほしい。理由を聞くと「…あっ、あっとうてきだから…」と鼻をたらしながら言った。少年漫画の、昔のドラゴンボールの、あの白いつるつるが強かったかどうか、思い出せなかった。



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