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雨の降る、神保町へ

雨の日が続く梅雨の時期、なぜだか無性に神保町に行きたくなり、ひとり本の街へ向かった。

・DILL COFFEE PARLOR

ひとが行き交うせわしない早朝、小川町から神保町へ向かう途中にあるDILL COFFEE PARLORへ。今年の三月にオープンしたばかりというこのカフェ、SNSで偶然見つけた写真に惹かれてしまった…

200年前のインドの木材を使用したという大きな扉を抜けた先には、ミッドセンチュリーモダンの広々とした空間が広がる。

入り口付近にあるショーケースには、キャロットケーキ、クランベリードリームバー、ニューヨークチーズケーキと、アメリカンな焼き菓子が並んでいてときめいた…

重厚感のある上品な階段を上がり二階へ。
見惚れてしまうような洗練された空間の窓際には、ゆったりとした白いソファ席がある。床には特徴的な模様のタイルが敷かれていてかわいらしい。

注文したのはシングルエスプレッソのカフェラテとキャロットケーキ。

ほどよい苦味とやさしい口当たりのカフェラテには、オランダに本社を構えるKees van der Westen社のカスタムオーダーによる、世界にたったひとつのエスプレッソマシンを使用しているそう。

ボリュームのあるキャロットケーキの生地にはごろごろとナッツやレーズンが入っていて、甘く爽やかなフロスティングとよく合う。

誰もいないカフェでぼうっと朝を迎えるのは、日常から解き放たれたような感覚がして心地よかった。

・学士会館

朝食の後は、神保町に来たら必ず訪れたいと思っていた学士会館へ。

学士会館とは、旧帝国大学出身者の交流の場として建設された施設で、災害による焼失や延期を経て1928年にようやく現在の建物が完成したそう。カフェ、レストラン、会議室、結婚式場など様々な施設が備わっており、現在は一部施設を除き一般利用も可能となっている。

建物内に足を踏み入れた途端、重厚でクラシカルな空間に引き込まれる。
北口から入ってすぐ、二階へと続く階段の踊り場にある、彩度の控えめな色合いのステンドグラスに心を奪われた…

時代を遡ったかのような厳かな雰囲気が漂う中、当時の姿に思いを巡らせながら足を進めた。

写真には収められないほど美しいステンドグラス
赤い絨毯が続く廊下に面した談話室

併設されたカフェ&ビアパブ THE SEVEN’S HOUSEにも寄り、休息を取った。緩やかにカーブしたカウンター席、窓の向こうはすっかり雨が上がり、まぶしい光に溢れている。

アップルパイとセットの紅茶

学士会館は今年の十二月に一時休業となるそう。寂しいけれど、今回滑り込みのような形で見学できてよかった。

・古書店街を散策

神保町というと”本と喫茶店”というイメージが強い。隅々まで昔懐かしい色に染まっているのかと思いきや、大通り付近は高層ビルの立ち並ぶビジネス街になっていたので驚いた。

平日ということもあり、オフィススタイルのひとたちがてきぱきと足早に行き交っていく。

古書店街と呼ばれる通りには古本がぎっしりと詰まったワゴンがいくつも店先に出ていて、ビジネス街の背筋が整うような緊張感と懐かしさが共存していた。

所狭しと並べれた古本の見慣れない背表紙を眺めていると、私の知らない世界がこれほどあるのかと圧倒されてしまう。

文庫本だけではなく、レコード、パンフレット、子ども向けの絵本と様々専門店が点在していて、街を巡るだけでも好奇心をくすぐられて愉しい。

子どもの本専門店&カフェのBook House Cafe
壹眞珈琲店の入り口に飾られたカップとソーサー、コーヒーミル

・PASSAGE by ALL REVIEWS

PASSAGE by ALL REVIEWSは、書棚のひと仕切りごとに店主がいる共同書店。

店名の「PASSAGE」は、フランス語で”通過”や”小径”、パリを中心に建てられたアーケード式の商店街のこと。書店内に吊られたシャンデリアやアーチ型の美しい内装は、パリの上質な空気感を表現しているそう。

書棚の仕切られたひとつひとつの空間には、店主によって個性溢れる世界が展開されている。
小説、音楽、ライフスタイルと多種多様な本が並んでいて、ジャンルごとに分けられた一般的な書店とは違い、手に取ったことのない本との思いがけない出会いを愉しめる場所だった。

目に留まった本のページを捲ってみたら思いのほか見入ってしまったので、再訪した際は気に入った本を何冊か買って帰りたい。

・カフェ トロワバグ

最後は地下にひっそりと佇む小さな喫茶店、トロワバグへ。狭く急な勾配の階段を降り、入り口の扉を開けると、1976年創業のレトロな雰囲気に包まれる。

赤いビロード地の椅子、壁に飾られた絵画、カウンターの奥には美しいカップとソーサーがずらりと並んでいる。

気分が落ちていたこともあり、ウィンナ珈琲のほのかな甘みとほろ苦さが身に沁みた。ひとり客用にカウンター席があることにも救われる。

以前知人の悩みをきいた際にも訪れたけれど、ここは気持ちが沈んだときに向かいたくなる場所。

仄暗い空間とその中に浮かぶランプのあたたかい光の色、落ち着いた空間と熱い珈琲の香ばしい匂い。陽の光を浴びることさえ辛く感じるとき、すべてが心に滲むように、そっと寄り添ってくれるような気がする。

ユリの花が花瓶から溢れるほどいっぱいに咲き誇っていた

時が流れ、景観や空気感などさまざまなものが新しく移り変わる中でも至るところに歴史を感じられる街、神保町。いつか喫茶店でゆっくり珈琲を飲みながら、ひたすら読書に耽る至高のひとときを過ごしたい。

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