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狂おしいほど愛しかった


_家を飛び出すと冬みたいな冷たい風が頬をかすめる。
昨日までの暖かい風はどこへ行ってしまったのだろう。今日が少しだけ特別な日に思えた。

ビルの立ち並ぶ都会に引っ越してどこか日々が無機質なものになった。駅に向かって歩きながらふと後ろを振り返ったら遠くのほうに山が1つだけ見えてほっとした、生きていて良かったと思った。

大学の図書館で勉強をして、あまりにもお腹が空いたから何か買おうと思って外に出た途端、自然の匂いが身体中を包み込んで少しだけ泣きそうになった。_


 鳥のさえずりも木の葉がこすれる音も全てあの街へ置いてきてしまった。胸いっぱいに空気を吸いこんで心が洗われることもなくなった。

 幸せな思い出。幸せが思い出として過去に閉じこめられてしまったら、私はどうすればいい?心にぽっかりと空いてしまった大きな穴を埋める術を私は知らない。

 あの街での思い出と生活を求めて、引っ越したばかりなのにまた引っ越そうかなんて考えてる。単純だ。馬鹿みたい。

 前に進もうとしているのか、はたまた過去に縋りついているのか。

 お酒を飲んだ後にコーヒーを飲みに行ったの初めて。コーヒー大好きだけど、呑みの〆にこんなに合うんだ~~!お店の雰囲気も良くて何より美味しかった、本当に。

 26時までやってるコーヒー屋、もうそれだけで気分が上がっちゃう。


 皆んなはどんな時に幸せを感じますか?

 忙しない毎日も充実してて好きだけど、ただ1日1日が刻々と過ぎていく無機質な今に気付きたくないだけなのかもしれない。

 今の私が心から幸せだと思うのはきっと、あの街に生きることなのだろう。



 過去って厄介だ。

 それが狂おしいほど愛しいものなら、尚のこと。


 幸せな過去に縋らず前を向くにはまだ私は未熟みたいで、あの日々を求めて未だ彷徨っている。

 進むべき方向も、場所も、もう一度あの街を訪れたらわかる気がする。

 それまでは、まっすぐに、壊れないように。


 またね。



2023,6,10

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