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傍に居た人(宇多田ヒカル「初恋」を聴いて)

ヒカルさんの新しいアルバム「初恋」を買う。袋を開けて、カバーを開き、歌詞カードを読む。

歌詞を読みながら始終思っていたのは、人生の傍に居た(いる)人のことだった。

「夏の花が散る頃には 笑顔で僕を迎えに来て」

このフレーズを読んだとき、
簾越しに廊下へ差し込んでくる夏の真昼の陽ざしと
昼ごはんを作ってくれる母の後ろ姿
夏休みの終わりを思い出して
まだそれを聴く前だというのに、涙がこぼれた。

ただの郷愁じゃない。
あの頃はよかった、とも違う。

ずっと私の人生の傍に居て
耐えて
どんな私も受け入れてくれていた人を大切にしたい、死ぬまで

そう思って、涙がこぼれた。

歌詞を読んでいるあいだ、
認められたい、意味のあることをしたい、ああしたいこうしたい
生活している中で私の頭の中を埋め尽くしているあれやこれやのことを忘れていた。
一方でこの生活のことを思っていた。
始まり、いつか終わる、この生活を大切にしたいと。

たった数分前のことを忘れる
たった数行の文章が読めない
誰が作ったかもわからないご飯を食べるたび機械になっていく身体を
ヒカルさんの不変性と普遍性が生き返らせる

そういう心地がした。

読んでいただきありがとうございました。サポートしてくださると本づくりが一歩進みます。