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あの頃の私を抱きしめた日

18歳の私が残した物

クローゼットを整理していたら引き出しの中から一枚の大学ノートが出てきた。何か書いてあるかなーってパラパラやったら10ページくらいびっしりに綴られてて…

思い出した。

これは私が初めて一人で渡米した日の夜に書いたもの。

留学初日の心の声だ。

片付け中だったけど、ちょっと休憩。
インクの出が悪いペンで書いたのか、手に力が入らなかったのか...

情けない文字が並んでいる。

「なんで来ちゃったんだろう」

「寂しい」

「今泣いてる」

アハハ、そうだった、そうだった。
こんな事書いたっけ。

「家族に会いたい」

そんな思いを綴ったページの端は涙のあとで歪んでいた。

文字を追っていくうちに忘れかけてた思いが一瞬にして蘇ってしまって、、、

笑いながら気がついたら頬を涙が伝ってました。


この思いを綴る数十時間前にバイバ〜イなんて、気軽に家族に手を振った事をとても後悔した私。

悲しかったね。

寂しかったね。

いっぱいこれから悔しい思いもするよ。

頑張って。

ノートに綴る数十時間前

キャップを被ってロキシーのTシャツかなんか着てた。アメリカンになりきって。

成田行きの車内でも全く緊張していなかったし、家族で海外旅行にでも行くような感覚で後ろの席で寝っ転がってた。
窓に足なんか上げちゃって。

成田に着いてからも、ザ・ティーンエイジャーって振る舞いでスーツケース転がしてた。
早く搭乗の時間にならないかな〜。
なんてガムなんか噛んで。

搭乗の時間よりだいぶ前に

バイバ〜イ!!

って雑に手を振った。
家族は心配そうにしていた。

「頑張れよ!!」

「はいはーい」

色んな思いが込められて重みを増した両親の言葉さえも軽く蹴っ飛ばすくらいの態度でいた。

機内でも楽勝だった。

「これから留学に行くから一人で飛行機乗ってるの」

っていうオーラをこれでもか!ってくらい出して。

飲み物も機内食もスムーズにオーダー出来たし。持ってきた雑誌を読んだり、寝たり、ゲームしたり。

ロサンゼルス国際空港に着いてからも特にこれといって感情の変化はなかった。

なぜならホームステイ先に着くまではまだ旅の途中だったから。(ダサっ、真面目かっw)

到着ロビーをくぐると、名前入りのプラカードがズラリと並んでいたけど、どの名前も私ではなかった。

「いないじゃん...」

そうこうしていると、

ごま塩の髪を乱しながら駆け込み乗車みたくロビーの自動ドアに突っ込んできた人と目があった。

「Are you Sana?」

「はい、あ、イェス。」

は〜良かった〜〜とため息をつくドライバー。

それはこっちのセリフだと思いながら彼に案内され車に乗り込む私。

が、全然発車しない。

彼は車で色々聞いてきたけど、全く分からず愛想笑いがつづく...

「なんとかかんとかターキー」

「ターキー?」

「Yeah」

(ターキーってなんだ...七面鳥....?)

*Turkishとはトルコ人の事でドライバーはトイレに行ったトルコ人留学生を待ってから出発すると言っていた。

全く理解していなかったので綺麗なお姉さんがドアをノックしたときに

「わっ」

っと軽く仰け反った事を今でも覚えている。

なぜ理解できなかったのに後に分かったかと言うと、こんな事もあろうと用意していたメモ帳に、相手が言った事を分からないながらにも、カタカナでメモっていたからだ。

さてようやく出発。

全開に空いた窓から入る心地の良い風。

遂に来ちゃったな〜。

アメリカの匂いを深呼吸。

「これからホストファミリーの家に向かうよ。君が先ね」

何となくわかったドライバーの言葉。

バックミラー越しにうなずいた。


それからホストファミリーの家に降ろされて

お互い自己紹介を済ませ、

車に乗り込むドライバーとターキーちゃんに手を振った。

いよいよここからは完全に私とホストファミリー。ホストマザーにさーっと各部屋を案内されて、最後の部屋のドアをあけた。

「ここがあなたの部屋よ。30分後、ディナーだからね」

「オーケー」

結構あっさりドアを閉められた。


思いっきり泣いた夜

5分ベッドに仰向けになった。

それからその部屋を使いやすいようにコーディネートしようとスーツケースを開いた。


(まずは洋服からかな...)


荷物を出しはじめた時にふっわっと香った家の匂い。


張り詰めていた糸が切れた瞬間だった。


溢れ出す涙を拭いながら、
スーツケースから一枚一枚洋服を取り出してハンガーへ掛けていく。

もう涙で前が見えなくって。

持ってきたタオルも探せなくって。

ぼやけた視界の中には家族の笑顔があった。

GoogleもLINEもない時代。
気軽にメッセージもできなかった。

友達もいない。

家族もいない。

言葉も通じない。

ひとりぼっち。


だからせめてスーツケースの中に入れて持ってきた大学ノートに自分の気持ちを綴ったのだ。

30分後目を真っ赤にして部屋から出てきた私を見て、ホストマザーが慌てたことは言うまでもない。

大人になって久々に泣いた。

みなさんは過去の自分を抱きしめてあげたいと思った経験はありますか?

私は今この大学ノートを読みながら過去の自分を抱きしめています。

I'm so proud of you, Sana.

そして今この思いを今度はnoteに綴っています。
便利な時代になりました。

さてと、残りの、片付けもう少し頑張ろうかな。

あ、その前にお母さんにLINEコールしよっと。


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