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1行のコードから社会課題の解決へ、思いを馳せる。READYFORのエンジニアリングの軌跡と展望

はじめに

READYFORでVPoEをしている熊谷です。READYFORアドカレ1日目を担当させていただきます。

今回は、READYFORのエンジニアリング組織について、シリーズAの資金調達後の2019年1月から、シリーズBやCを経て、今日までの約4年間を振り返ろうと思います。これまで多くの取り組みや、数々の失敗など、怒涛の日々を過ごしてきましたが、そのあたりを一度棚卸して整理することで、次の活動にも繋げていけたらと考えています。

また、シリーズA〜Cラウンド程度のスタートアップ企業や同規模のエンジニアリング組織を抱えているエンジニア/マネジメント層の方々へ、何か一つでも参考になる事があれば幸いです。


あと今回、この約4年間の振り返り記事を書こうと考えた理由はもう一つあります。昨今では世界情勢やスタートアップ業界、また生成AIなどテクノロジー界隈などなど、様々な領域で転換点を迎えていると思いますが、READYFORにおいても大きな転換点を経て、新たな局面へ差し掛かっていると感じていて、その前に一度アウトプットしておくことで、次の思考へと上手く切り替えができるかなと考えたからです。

▼ READYFORのエンジニアリング組織の軌跡

さて、READYFORのエンジニアリング組織を振り返るにあたり、この約4年間を3フェーズ x 3項目に分けて整理してみました。

READYFORエンジニア組織の変遷

実際は各フェーズを跨いで重なり合っていたり、まだ完了している訳では無かったりと、かなり荒目な分け方ではあります。ただ注力していた取り組みとして、全体感はそこまでズレてはいないのかなとは思います。

  • 創業期:2011年3月〜

  • 急成長期:2019年1月〜 

    • ▼ フェーズ1. 2019年1月〜 ( 約7名 )

      • 【 注力ポイント 】

        1. プロダクト機能開発の全停止

        2. システムの基礎固め・再構築

        3. 組織再編と採用戦略の推進

    • ▼ フェーズ2. 2021年7月〜 ( 約15名 )

      • 【 注力ポイント 】

        1. 開発生産性/開発者体験の向上

        2. アーキテクチャ再設計/技術的負債の解消

        3. 専門人材の獲得強化と組織拡大

    • ▼ フェーズ3. 2023年1月〜 ( 約30名 )

      • 【 注力ポイント 】

        1. 信頼性とセキュリティの強化

        2. プロダクト機能開発を強化

        3. 生成AIを含む全社的な業務効率化

    • 主に採用した人材( 業務委託含む )

      • VPoE / VPoP、各PM職種 ( TPM / PMM / PdM )、エンジニアリングマネージャー、テックリード、フロント/サーバーサイドエンジニア、プロダクトエンジニア、プロダクトデザイナー、QAエンジニア、機械学習エンジニア、etc

  • 安定成長期:??

それでは、上記の三つのフェーズと注力ポイントを踏まえた上で、振り返ってみたいと思います。

▼ フェーズ1 ( 2019年1月〜

2019年にCTOが参画し、エンジニアも徐々に増え始める中で、真っ先に示された方針は新機能開発の完全停止でした。社内的には「停滞していた機能開発がようやく加速するのでは?」と言う期待感の中での完全停止判断でした。
理由としては、技術的負債がかなり深く蓄積され、日々の開発・運用もままならない状態であったことが挙げられます。その背景としては、READYFORのサービス開始は2011年からで、WEBサービスとしてはそれなりに長いのですが、当初は事業規模も小さく、開発人員も最小限であったため、ハリボテのような開発で進めざるを得なかった、という事情があります。
そのため、まずは止血をしつつ、抜本的な改善に向けた計画策定を進め、さらに社内受託開発のようになっていた開発体制の見直しが進められ、さらにエンジニアが主体的にプロダクト開発に関わる体制を目指すことから始まりました。

READYFORテックバリュー 「エンジニア組織のあり方を定義する」

組織再編や採用強化に伴い、「READYFORがどんな集団なのか?」の道標として策定されたのが「READYFOR Tech Vision 『想いをつなぎ、叶える未来を、つくる』」と「Tech Values」です。これは今日でも活用されています。この辺りがしっかり言語化されると、会社全体だけでなく、社外的にも通じる共通言語となり、採用活用や登壇資料でも有用なものとなります。

READYFOR Tech Values

概念「乳化」の登場 「エンジニア/非エンジニアの線引きを無くす」

READYFORの追求する乳化

READYFORでは「組織の中にエンジニアリングが自然に溶け込んでいる状態」 を「乳化」と呼び、エンジニアだけでなく、全社的にこの「乳化」という言葉が用いられ、エンジニアサイドやビジネスサイドなど境目のない状態を目指しています。
ただ今回、この記事を書いていて気が付いたのですが、「乳化」という言葉はこれまで多用されていたのですが、ここ最近ではあまり使われなくなっています。当時は、エンジニアリング組織の拡大を進める中で、部署間の垣根を生み出さないように、明示的に用いる必要があったけど、今ではしっかり根付き、自然に溶け込み始めきているように感じます。つまり「乳化が浸透すると意識的に言葉を使う必要がなくなる」ということであると思います。実際にREADYFORでは、部署間の関係は非常に良好ですし、お互いの連携や協力もとてもスムーズであると日々感じています。

機能開発を全停止 「まずは止血せよ、話はそれからだ」

2019年当時の最低最小のインフラ構成と利用ツール

上記の構成を見て即座に察する方もいると思いますが、当時の状況としては、メディア露出でサイトはすぐに落ちるし、システム変更時に思わぬ箇所でのエラーが頻発したり、ローカル環境からの不安定な手動デプロイが常態化していたり、その他データバックアップの不備やセキュリティリスクなどなど、無視することのできない多くの課題がありました。

そのため、プロダクトの新機能開発を全てストップし、目の前の緊急度の高い対応を急ぎつつ、「攻めるために守る」ための戦略を考える必要がありました。

スクワッド体制へ移行 「縦割り/横割りを防ぎ、より能動的なチーム編成へ」

READYFORのスクワッド体制

スクワッド体制を導入し始めたのもこのフェーズになります。スクワッドとは少人数の職能横断型のチームで、ミッションに基づいてスクワッド内で意思決定し、業務を遂行します。
スクワッド体制に関しては、チームの粒度や編成、ミッションなど試行錯誤しながら、ブラッシュアップを重ねてきました。設計・導入をしてみて、特に難しいなと感じた点としては「意識決定をスクワッド内で完結させること」が一つ挙げられるかなと思っています。理由としては、大上段でミッションを定義しているとはいえ、実際の意思決定には経営はもちろん、他部署・他部門が関係するような事が多くあり、そうなるとチームの能動性が低下し、うまく機能がしづらくなります。
現在では、スクワッドというよりかは、フィーチャーチームに近い体制になってきています。ただ最初から今の体制を導けていれば良かったのかというとそうではなく、これまでの試行錯誤があったからこそ、今のこの体制に辿り着けているのだと思います。事業や組織は変化し続けるわけですので、その変化としっかり向き合いながら、最適解を考え続けることが大事なのではと思います。

余談:チームトポロジーを用いた考察

チームトポロジーを用いた体制考察 (2022)

これは少し余談になりますが、2022年に考察したチームトポロジーを用いた組織設計について簡単に紹介させていただきます。チームトポロジーはEM陣でちょっとした勉強会を実施したのみで、正式に採用はしていないのですが、チームタイプやコミュニケーションタイプのフレームワークはとても強力なので、今後の体制検討の中で活用していきたいなとは考えています。

▼ フェーズ2(2021年07月〜)

この時期になると、顕在化していた致命的な問題への止血対応も進み、システム全体の技術的負債も緩やかに解消され始めてきました。また、エンジニア人員も徐々に増えてきて、取れる選択肢も少しずつ増え始めてきました。

一方で、腰を据えての対応が必要な重たい課題はまだまだ残っていたり、改善を進める上で新たな課題も出てきたりする中で、より全体を捉えた上での計画的な取り組み方が求められるようになりました。

FourKeys/DX Criteria導入 「推測するな、計測せよ」

DX Criteriaの導入と運用
テーマ「システム」のスコア比較


改善作業を進めていく中でいくつか課題が出てきました。大きく一つ目は「これまでブルドーザーのごとく改善を進めたが、何がどう改善したのかよくわからない/振り返れない」、二つ目は「山積みの改善案がある中で、どこに選択と集中したらいいかわからない」ということでした。

そこで導入を検討したのがFourKeysとDX Criteriaでした。開発力や開発者体験を定量可視化することで、エンジニアリング組織全体の課題の包括的な把握と振り返りができる状態を作り、そこから最適最善な改善策を推進できるのではと考えました。

  1. 全体共有:課題感の認識と全体の方向性をチーム内で共有して、進められるようにしたい。

  2. 振り返り:定期的に、何がどう良くなったのか、改善項目を振り返られるようにしたい。

  3. 問題解決:個々でも、MECEに全体を意識しながら、問題解決に取り組めている状態になりたい。

  4. 市場比較:自社の強み・弱みを理解することができ、他社との市場比較をすることができる。

自社で何かしらフレームワークを作り、独自に定量化することも考えたのですが、その作業自体にかなりの工数が必要になるのと、社外の取り組みとの比較ができず、ベンチマークとしても使えないため、このFourKeysとDX Criteriaの二つを採用しました。あと当時、書籍「LeanとDevopsの科学」が話題になっていて、統計的な裏付けがあることも採用理由の一つでした。

FiveKeysとREADYFORの目標水準
デプロイ頻度とリードタイムをRedashで可視化

現在では、多くの改善の取り組みの成果により、デプロイ頻度やリードタイムともに比較的高い水準を安定的に維持できるようになったため、目標としては現状維持に留めています。
このFourKeys/DX Criteriaの取り組みの詳細は、以前自分が書いた記事を参照いただけたらと思います。
https://qiita.com/KUMAN/items/8cee8e33628850fd4e29

アーキテクチャ再設計・再構築 「既存のベストプラクティスを積み上げる」

インフラ構成と利用ツールの変遷

フェーズ2の後半になると、アーキテクチャやツールもかなりモダンな構成に整備されてきました。他の同規模のスタートアップと比較しても、遜色無いくらいまでには整い始めてきたのではないでしょうか。2019年当初に抱えていた非効率な開発フローも改善し、マイクロフロントエンド導入などアーキテクチャも進化し、インフラ面の堅牢性やセキュリティなどもより強固になってきました。

[B] WEBセキュリティのリスクと対策サービス・ツールの概要図

利用しているツールを一部紹介します。ここ最近の目新しいところでは、A/BテストのGrowhBookを導入したりしています ) 

  1. Autify: 自動化されたウェブ・モバイルアプリテストをコーディングなしで提供するテストプラットフォーム。

  2. Netlify: ウェブサイトの開発、デプロイ、ホスティングを簡素化する、Jamstackに特化したサービス。

  3. Datadog: クラウドインフラやアプリのパフォーマンスをリアルタイムで監視・分析するモニタリングツール。

  4. Terraform: インフラストラクチャをコードで管理し、自動デプロイを実現するオープンソースツール。

  5. Sentry: アプリケーションのエラーをリアルタイムで検出し、追跡・解析する監視ツール。

  6. CodeClimate: コードの品質を維持・改善するための自動レビュー機能を提供し、複雑さ、重複、バグのリスクを監視・分析するツール。

  7. Redash: オープンソースのデータ可視化ツール

  8. Tableau: データを視覚化し、ビジネスインサイトを得るためのユーザーフレンドリーな分析ツール ( 最近ではもう使っていない ) 

インフラ構成では、元々はELB + EC2 + RDS (MySQL)と極々シンプルな構成でしたが、RDS Aurora移行、ECS/EKS移行、セキュリティ関連でWAF, Inspector, GuardDuty導入、データ基盤周りで Glue/Athena採用( 最近ではGCP/BigQuery/GCSなど) など、積極的な改善を進めてきました。

結果として、開発力/開発者体験も大きく向上し、堅牢性・冗長性もかなり高まり、大型のプロジェクトやメディア露出に対する耐性もかなり高まってきました。

技術的負債の解消 「コンテキストマップ策定と技術的負債の定量化へ」

ドメインエキスパートとのヒアリングを重ね、コンテキストマップを策定

アプリケーションの技術的負債の解消に関しては、ドメイン駆動設計(英語: domain-driven design、DDD)を参考にしつつ、取り組んでいました。上記の図は、エンジニアと各ドメインエキスパートでコミュニケーションを積み重ねながら、作成したコンテキストマップになります。 ( 文字は若干ぼかしていますが )
DDD導入に関しては正直、色々と反省点もあるのですが、各ドメインと境界が可視化されたコンテキストマップは、エンジニア内外の円滑なコミュニケーションに繋がり、とても良かったのではと思います。

CodeClimateをBigQueryと同期させて可視化

またアプリケーション側の技術的負債は、CodeClimateを導入して定量可視化して、定期的に見直しと振り返りができるような運用をしています。また導入以降、CodeClimateの負債化率は一貫して下落し続けており、とても良い状態を維持できているように思いますし、そういった振り返りができるのは大きな利点です。

専門人材の獲得と組織拡大 「想いをつなぎ、叶える未来を、つくる」組織へ一歩ずつ」

READYFOR アドベントカレンダー2022
https://qiita.com/advent-calendar/2022/readyfor

READYFORはアドベントカレンダー2022では、とても充実した多岐に渡るテーマがラインナップされました。2019年のエンジニアが10名も満たない中で掲げられていたテックビジョン『想いをつなぎ、叶える未来を、つくる』を見返すと、ビジョンを実現するための組織に着実に近づいたのではと、感慨深いものを感じるとともに、

デプロイ人数と回数の推移

ちょうどこのアドカレ2022時点の「一人当たりのデプロイ回数」のグラフを見ると、新しく人が増えて組織拡大しても、デプロイ回数は衰えることなく、強く向上していることがわかります。

▼ フェーズ3(2023年01月〜)

今年も本当に色々なことがあったのですが (遠い目・・・・)、3年前と比較すると、改善の余地はまだまだあるとはいえ、プロダクト開発もより解像度高く取り組めるようになったり、提供できるシステム品質も数段高まってきたように思います。その他、今年台頭した生成AIの取り組みなども積極的な検証導入を進めたりしています。

プロダクト機能開発の推進 「顧客と向き合ったプロダクト作りへ」

READYFOR News #新機能
https://corp.readyfor.jp/news/tag/feature

3年前に完全ストップさせた新機能開発ですが、日々の運用改善と並行しながら、今ではほぼ毎月、新機能をエンドユーザーに向けて届けられるようになってきました。また今年に入り、念願の(ずっと探し続けていた) VPoPが参画してきたのも非常に大きいところかと思います。
もちろん機能開発の解像度やスピードはまだまだ高めていく必要があり、道半ばではありますが、この4年を振り返ると大きな進歩であると思っています。

より高く求められる信頼性 「信頼性こそが、あらゆるプロダクトの基本的な機能である」

READYFOR 注目プロジェクト
https://readyfor.jp/projects?sort_query=notable

嬉しい悲鳴ではあるのですが、これまでの過去最高を大幅に上回るトラフィックを記録するプロジェクトが出てきたり、他にも注目を集める様々なプロジェクトがREADYFORで展開されるようになり、世の中への認知や期待の高まりを感じます。また同時に、求められる信頼性の水準も一段上がったように思っています。
そのような背景の中で、これまで優先度が下がりがちであったパフォーマンスや信頼性向上の策を実施してきましたが、まだまだ根深いところでボトルネック解消が必要な部分が残っており、しっかり腰を据えて改善に取り組む必要があります。

LLM/生成AIの台頭 「全社的な業務効率化/付加価値向上の模索へ」

LLM/生成AIの活用に関しては、まだまだ手探り段階ではあるのですが、技術キャッチアップも含めて取り組み中です。技術的な進展も激しい中、想定できるユースケースも多岐に渡り、進め方が難しい部分でもありますが、部署横断で巻き込みつつ、進行中しているところです。
上記の図は、組織的な体制とバリューチェーンをマトリクスにして、ユースケースを整理したものになります。ユースケースが曖昧で不確実なものも多いため、施策名は伏せています。まずは導入しやすく業務効率に直結しやすそうな社内のユースケースから試してみて、技術的な知見を蓄積した後にエンドユーザー向けの機能展開を考えていけたらと考えています。

▼ 今後の展望

「展望」について、これまで紹介した取り組みもまだまだ道半ばなものが多くある中で、何をどこまで話すか悩みました。そこで、改めて「展望」を辞書で引くと「1. 遠くまで見渡すこと。2.  社会の動き、人生の行く末などを見渡すこと。」といった説明が出てきましたので、今回は少し視野を広げて、今後の社会・経済の動向で気になっている三つのポイントを、エンジニアリングの観点を交えて、考えてみたいと思います。

補足として、あくまで個人的な希望的観測を踏まえた考察になります。あとそれぞれで一つ記事が書けてしまうような内容のため、かなり簡略化しています。

①スタートアップ市場の転換 「市場の変化を捉え、新しい波を見据える」

東証グロース市場250指数(旧:東証マザーズ指数)と米国2年債の推移

大上段として、米国の金融政策は世界の経済・金融全ての土台となると言われており、国内スタートアップ業界においても一定意識しておく必要があると思っています。
上記の図を見ると明白ですが、コロナ期は米国を始めとした世界的な金融緩和により、日本のスタートアップでも一時的に1,000億円を超える企業もいくつか現れました。しかし、米国の量的緩和縮小開始を起点に、マザーズ指数は惨憺たる状況に陥っています。同時に資金調達バブルの崩壊とも言われたりしています。

スタートアップ/エンジニアリングにおいてもこの環境認識はとても大切であると思っています。これまでは「どれだけ赤字を掘ろうが、資金調達をして、売上さえ伸びていれば評価されていた」時代であったが、これからは「より利益重視の堅実な経営」が求められるようになってきたと思います。

そのため現在、多くの企業やREADYFORにおいても、トップラインを伸ばすことの重要性は変わらない一方で、これまでの規模拡大を最優先する方針から思考を転換しつつ、難しい匙加減が求められていると感じます。

また、この図から得られるもう一つの視点としては、5年10年の単位で見た場合、「大なり小なり、常に波は発生し続けている」ということです。そして、「いつかまた新しい波はくるが、同じ波は来ない」という風に個人的には考えています。正確に予見することは不可能だと思いますが、新しい波を見据えながら、自身が携わる事業の可能性を追求することは大事であると思っていて、これからも継続的に考えていきたいです。

(目の前の市場感についてもう少し触れておくと、「Higher for Longer」が市場のコンセンサスとなってきている中、短中期的にはまだ厳しい部分はあると感じていますが、そこの大流を常に見据えておきたいなと思っています )

②エンジニアリングと企業価値  「社会的活動が、より適切に評価される世界へ向けて」

経済産業省. 企業と投資家の対話のための「価値協創ガイダンス 2.0」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/ESGguidance.html

2つ目は、また少し飛躍しますが、今後の企業価値の在り方の変化に着目しています。またこれは、①で述べた「新しい波」とも深く関連すると思っています。

着目に至った元々の発端は、「エンジニアリングで事業貢献する、企業価値を高める」
といった話の中で「日々の財務諸表に直結しない、エンジニアリングの活動をどのように事業と接続させるか?」という課題感でした。

今日では、その一つの方法として例えば、「技術的負債といった比喩を用いて財務諸表のPL/BSに喩えて、そこから開発力 / 開発者体験のような定量値と関連付ける」という試みを聞いたりしますし、実際にREADYFORでも似たような事を掲げています。

ただ実際には、「エンジニアリング部内においては定量・可視化することで一定の説明がつく/判断材料として活用できる」が、結局のところ、「経営の意思決定や企業価値への貢献等において材料にはなり得ない」と思っています。( もちろん参考材料にはなったり、間接指標として経営と合意をとったりで活用はできるかもしれませんが、本質的な部分では難しいのではと思っています。) 

そこで中長期的に注目しているのは、社会的・環境的課題の解決など持続的な活動を企業価値に反映させるための動きが国内外で試行・検証されている事です。国内では、先日READYFORも選出された、経済産業省が運営する潜在力の高いインパクトスタートアップへの集中支援を行うプログラム「J-Startup Impact」もその一環であると思います。

最近では各社のIRを見ると、サステナビリティに関する取り組みとして「マテリアリティ(重要課題)」が掲げられることが増えたように思います。マテリアリティの項目は多岐に渡り、どのマテリアリティを掲げるかも各社様々ですが、「非財務的なエンジニアリング活動に関連する項目」が含まれる事例も目にするようになりました。

つまり、財務的価値のみが評価される現代で、多くの課題が顕在化し始めていており、その解決の方向性として「非財務的」価値の適正な評価が注目されていて、そのワン‐オブ‐ゼムとしてエンジニアリングと親和性の高い項目が並ぶことで、そこで「エンジニアリングと企業価値」がより深く接合できるようになるのではと期待しております。

ただ、このような動きは、世界的にまだ確立しておらず、試行錯誤の段階です。実際、非財務価値の適正な評価基準の策定と市場への浸透に至るまでの道のりは簡単ではなく、まだ時間がかかると思っています。また正直なところ、明確にどこまでエンジニアリングの活動に紐づけられるかは、雲を掴むような部分もあると感じています。とはいえ、国内外でそのような課題意識は高まり続けていて、解決に向けて行動している人も増え続けているのも事実だと思っています。今後、そのような社会的・環境的課題の解決に向けた取り組みが大きなうねりを作り、新たなパラダイムへと導くことを期待していますし、個人的にもその流れに貢献できればと思っています。

インパクトスタートアップ育成支援プログラム
「J-Startup Impact」選定企業
https://www.meti.go.jp/press/2023/10/20231006008/20231006008.html

③ 「社会的課題に寄り添った、行動変容を促す、エンジアリングの活用と発展へ」

「戦略」と「業務効果」
出所:[新版]競争戦略論 (マイケル E. ポーター)

①②とはまた少し違う角度からの話になりますが、エンジニアリングの展望ついて考察してみたいと思います。

これまでの振り返りでご紹介した通り、READYFORのエンジニアリングは、これまでのメンバーの数々の努力の積み重ねにより、他社と比較してもあまり遜色のないくらいモダンな形へ変貌を遂げてきたように思います。( もちろん、まだまだ課題は山積みで、やりたいこと/やれていないこともたくさんありますが… )

その中で少し角度を変えて、マイケル・ポーターの競争戦略で紹介されている「戦略」と「業務効果」の二つの軸で考えてみたいと思います。

「業務効果」とは、「競合他社と類似の活動を上手に行う」ことを指します。READYFORのエンジニアリングはウェブアプリケーションが主体になるわけですが、ソフトウェアにおけるベストプラクティスは進化が早く、あっという間に広がっていきます。そして進化が早いが故に、エンジニアリングにおける「他社との類似の活動」は放っておくとすぐに他社との生産性・機能性に差が開くといったことがままあります。

つまり、ことエンジニアリングにおいては「相対的に、現状維持は後退」という側面が強いため「生産性の限界点」(=ベストプラクティス)は継続的に追求していくことは大切であると思います。実際に、シリーズA以前のREADYFORでは開発体制・規模的にも追随するのが難しく、疎かにせざるを得ない状況にありました。そして、その非生産的な状況を打破するため、この4年間で相応の年月を費やす必要がありました。

上記を踏まえ、今後の「業務効果」について考えると、

  1. 堅実にプラクティスを積み上げる事。当たり前の事ではあるのですが、目の前の課題に向き合い、愚直かつ丁寧に対応していくことが、何だかんだで一番の近道であると振り返りをして改めて感じました。また、世の中が目まぐるしく変化する昨今において、「当たり前を当たり前に実行し続ける」ことの難しさに加えて、エンジニアリングに求められる当たり前の水準も年々上がっているようにも感じます。意識しておきたい大切なポイントであると思います。

  2. 「生産性の限界点」の地殻変動。やはり生成AI/LLMの台頭は無視できないと思っています。これまでエンジニアリングにおけるベストプラクティスを中心に追求してきました。今後はエンジニアリングを含め、企業活動におけるバリューチェーン全体のベストプラクティスが大きく変貌を遂げ、エンジニアリングが貢献できる新しい領域が広がっていくと思いますそこは強く期待するとともに、追求していきたいと考えています。

「戦略」とは「他社とは異なる活動に宿る」とあり、「トレードオフを伴う、差別化要因」とも言い換えられると思います。

ただ正直なところ、ここをエンジニアリング軸だけで語ることは難しく、あくまで個人的な意見として留めておきたいと思います。他社と異なる大きな強みとしては、「想いの乗ったお金の流れを増やす」というミッションのもと、「社会課題の解決に向け、誠実に向き合うメンバーと、その中で積み上げてきた数多くの知見と強い信頼」は一つ挙げられるのかなと思っています。そして、その解決しようとしている領域が「圧倒的に難しくはあるが、非常に意義がある」領域であることが大切なポイントであると思っています。

課題は、なぜ解決されにくい状況なのか?

上記を踏まえて、最初の「エンジニアリングの展望は?」という問い掛けに立ち戻って考えてみたいと思います。フェーズ1の最初で、「エンジニアリングを組織の中に自然に溶け込ますこと」を『乳化』という概念で推進してきたと紹介しました。それが、これまでの多くの活動を経て、今では自然に溶け込むようになってきたと思います。そして、その発展として「エンジニアリングを『社会』の中に自然に溶け込ますこと」が一つキーワードになるのではと感じています。

▼ 最後に

『1行のコードから社会課題の解決へ、想いを馳せる』

このアドカレのタイミングで一度、この激動の4年間を整理して振り返りたいなと思い、書き始めたのですが、気が付けば14,000文字を超えてしまいました…。4年分なので各項目の内容をなるべく薄くしようとは考えていたのですが、抑えきれませんでした…。 ( 果たして、どれだけの人がここまで辿り着けているのか怪しいですが、半分ポエムだと思っていただけたらと・・(笑 (汗

改めて思う事としては、チーム・メンバーの精力的な取り組みによって、4年前とは比較にならないほどREADYFORのエンジニアリングは強く進化を遂げている事です。一見するとスムーズに進んでいるように見えるかもしれませんが、正直辛いこともたくさんありましたし、多くのチャレンジと失敗を積み上げながら、着実に一歩ずつ前進してきたようにも感じます。

READYFORでは、普段頻繁に口にするわけではないものの、エンジニアリングを通じて何かしら社会に貢献したいという方々が集まっていると思っています。モノづくりは楽しいですし、自ら作り出したものは役に立って欲しいと誰もが思います。しかし、エンジニアリングは必ずしも直接的な成果につながるわけではなく、時に地道で目に見えない活動や基盤作りが主となります。また役に立つためには、事業はもちろん、社会との繋がりにも意識を向けることも大切ですし、そこには一筋縄ではいかない数多くの複雑さと不確実さを含んでいます。

「想いの乗ったお金の流れを増やす」というビジョンのもとで、「エンジニアが直接的に多く向き合うことになるのはコード」です。その中で価値を生み出すためには、社会、事業、プロダクト、そしてエンジニアリングを紡いでいく事が大切です。見方を少し変えると、この4年間はそこを如何に接合して紡いでいくかを、ひたすら四苦八苦していたようにも感じます。そして、その中で自然と思い付いたのがこのタイトルでした。

そのような想いを抱えつつ、冒頭に述べたとおり、今年は社会や市場の変化とともに、READYFORにとっても大きな節目を迎えた年であったように思います。おそらく来年以降も色々なことが起きるでしょうし、新たな挑戦が待ち受けているようにも思います。今後も事業及びエンジニアリングの未来を信じ、より強く推進していければと考えています。



明日12月2日は、@s_runoa さん担当です!お楽しみに!
READYFOR アドベントカレンダー 2023
https://qiita.com/advent-calendar/2023/readyfor

▼ 参考資料

  1. READYFOR:私たちについて

    1. https://corp.readyfor.jp/readyfor

  2. READYFOR、経産省が運営する「J-Startup Impact」に選定! 

    1. https://corp.readyfor.jp/news/20231006

  3. READYFOR の「テックブログ開設」までの軌跡 ( 2020-02-03 )

    1. https://tech.readyfor.jp/entry/1

  4. 「想いをつなぎ、叶える未来を、つくる」READYFORのエンジニア組織のあり方を示すTech Vision誕生 ( 2020-09-23 )

    1. https://blog.readyfor.jp/n/na49ded47043c

  5. 境界マネジメント:拡大する組織の中での役割分担について考える ( 2020-12-26 )

    1. https://tech.readyfor.jp/entry/2020/12/26/174546

  6. エンジニアリングマネージャーとしての開発力向上の取り組みついて ( 2021-12-17 )

    1. https://qiita.com/KUMAN/items/8cee8e33628850fd4e29

  7. FourKeysとDX Criteriaを用いた開発力・開発者体験向上の取り組み

    1. https://qiita.com/KUMAN/items/d591c6cc1842d83efb43

  8. READYFORエンジニアリング 2021年の振り返りと2022年の展望

    1. https://tech.readyfor.jp/entry/2021/12/25/100000

  9. READYFOR Advent Calendar 2022

    1. https://qiita.com/advent-calendar/2022/readyfor

  10. READYFORが総額約4.2億円の資金調達を実施 ( 2019-03-29 )

    1. https://corp.readyfor.jp/news/107

  11. READYFORがシリーズCラウンドで総額17億円の第三者割当増資を実施 (2022-07-13)

    1. https://corp.readyfor.jp/news/20220713

  12. READYFOR 会社紹介資料

    1. https://speakerdeck.com/readyfor/readyfor-company-introduction

  13. DX Criteria (v202104)/企業のデジタル化とソフトウェア活用のためのガイドライン

    1. https://dxcriteria.cto-a.org/

  14. フェーズ別エンジニア組織の課題と採用手法まとめ、山田裕一朗 ( CEO at Findy Inc )

    1. https://note.com/yuichiro826/n/nbda15530fa1a

  15. 2023年以降のSaaS業界のトレンドを見た──SaaStr現地レポート ( 2023-10-23 )

    1. https://blog.allstarsaas.com/posts/saastr-report2023

  16. 行動変容 自分と世界を変える技術

    1. https://speakerdeck.com/dmattsun/behavior-change-techniques

  17. ポスト資本主義を皆でつくる新たな世界 〜COTEN RADIO 資本主義編4〜

    1. https://open.spotify.com/episode/2tM7CweiQkm6d0IYlvuR5n?si=24849127a6824984&nd=1


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