記事一覧
残り物には懺悔がある【毎週ショートショートnote】
「なんであたしがここにいるのよ!」
「そうだ!そうだ!」
「シャー!」
「おまけに何よ!このタイトル!『残り物列伝』が『残り物列伝』になって『売れ残り列伝』になってるじゃない!バカにするんじゃないわよ!」
「そうだ!そうだ!」
「シャー!」
「おまけに〝そうだ!そうだ!〟しか言わないあなた、なに?…あんた!なんでパソコンの画面の中で気勢を上げてんのよ。ちょっと出てきなさいよ…えっ?無理
ときめきビザ【毎週ショートショートnote】
ある地下アイドルが妄想で自身の王国をつくりあげた。
入国審査は自らが担当するのだという。
ファンのオタク達はどよめき色めき立った。
SNSはざわめき、さまざまな情報が飛び交った。
「その査証は『ときめきビザ』と名付けられたらしい……」
「だがそのビザを持っていても彼女の質問に答えられないと入国できないんだ」
「スフィンクスみたいだな。だがまずはビザがないと」
「で、そいつはどこで手に入る
モンブラン失言【毎週ショートショートnote】
知る人ぞ知る霊能者の貞夫の新規事業は一点の不安を除いて絶好調だった。
霊能者の貞夫のフルネームは渡辺貞夫だ。ナベサダと呼ばれ親しまれ、たまにアベサダなどと、いいまつがえられたがその旧姓は山村だった。
ここで〝はっ〟と気がつくものもいるかもしれない。そう、あの山村貞子、〝貞子〟の係累なのだ。母親譲りの強力な霊能力は貞子にも勝るとも劣らないものだった。
その貞夫の新規事業のコンセプトは『生成AI
誘惑銀杏【毎週ショートショートnote】
スナック〝吉兆〟のホステス〝銀子〟はある常連客に心を寄せていた。
銀子というのはもちろん源氏名である。実際はその名のシブさからはほど遠い、容姿もそこそこの20代女性だった。雰囲気は地味だったがとにかく奇行が目立った。
吉兆では竜介さんと呼ばれている常連客も、とにかく酒に目がない鈍感力の権化というべき50代のオッサンだ。クリエーター然としているし、そこそこイケメンで体も鍛えているのに、その鈍さで
ひと夏の人間離れ【毎週ショートショートnote】
「まいど!おおきに。儲かりまっか?」
「ぼちぼちでんな~」
今時コアな大阪人も使わないようなコテコテの挨拶で会話が始まった。
ChatGPTとGoogleのGeminiだった。
「ヤッホー!おひさっ!」
更にめんどくさそうな輩が今時の女子高生も使わないようなJK語でそこに加わった。MicroSoftのCopilotだった。
ある技術者が用意した横断的なボードに超大手のAIが集結していた。
横断幕中耳炎【毎週ショートショートnote】
【ママ、結膜炎をぶっ飛ばせ!】
〝おおっと、横断幕が上がった!〟
サングラスの女性が応援席に向かって手を振る。
30代の男性と8歳ぐらいの女の子が手書きの横断幕を掲げていた。
世界一の主婦を決めるママリンピックが国立競技場で開催されていた。主婦力を競うのだ。
現在の競技は、陳列棚に並べられたおびただしい商品から最もお得な商品を選ぶ〝コノワスール無差別級〟だった。コノワスールというのは〝目利
鋭利なチクワ【毎週ショートショートnote】フェイク版
フィクションというよりフェイクが過ぎる……積極的に読まないで下さい!
締め切りに窮し、ネタに窮しで、どうしようもないお話に、たらはかに様をネタにして毎週ショートショートnoteに参加しました。ご容赦下さい~。したがいまして内容は限りなくフェイクです。よろしくご理解願います。
俺はとうとう一線を越えてしまった。
たらはかに先輩に対してだ……
先輩はショートショートの大御所だ。
それだけに俺は
非情怪談【毎週ショートショートnote】
この8月、一風変わった「百物語」が開催された。通常の百物語と違ってこのイベントはその参加者があっち系限定だった。怖い話しをするのではなく怖い参加者が日頃感じている思いのたけを披露するのだ。
トップバッターはショート・ボブのお菊人形だった。なかなか似合っていたのだがお菊には納得がいかなかった。自慢の黒髪を勝手にへア・ドネーションされてしまったのだ。このあたり、人形の持ち主側から描いたエピソードがあ
見たことがないスポーツ 高飛び込み(清水寺級)VS リバースやり投げ、勝者は?【毎週ショートショートnote】
新種目選定委員会は〝見たことがないスポーツ〟というくくりで検討を重ねてきたがここへ来てようやく2つに絞ることができた。
最有力候補は〝高飛び込み(清水寺級)〟だった。委員の多くは〝きよぶた級〟と言い換えていた。〝きよぶた〟というのは言うまでも無い。清水の舞台のことだ。若者には決して伝わらない死語である。
余談だがバブル期に若者だった選定委員の多くは年齢的にもだじゃれ気質というバイアスがかかって
見たことがないスポーツ 着ぐるみ駅伝【毎週ショートショートnote】
たすきリレーならぬ着ぐるみリレー。受け継ぐのは着ぐるみだった。
そして世界初となる「着ぐるみ駅伝」が今年の夏箱根で開催された。パリ五輪の開催日と同日だった。
猛暑日に、冬に行われる箱根駅伝と同じコースを走るのだ。あえて過酷な設定には意味があった。とかく色もの扱いされがちな〝着ぐるみ文化〟の地位向上だった。
そして単に速さだけを競うのではない。着ぐるみの出来映えやその重さも評価の対象となる。重
リベンジトリートメント【毎週ショートショートnote】
気の置けない仲間と始めた怪談百物語も98話が終了した。連日の熱帯夜であったが今夜はなかなか涼しい夜を過ごすことができた。
僕で99話となりこれでお開きの予定だった。夜も明けるのもあと3時間余りだ。
さて最後の話者となった僕は隣にいる妹と体験した最近の出来事を淡々と語り始めた。それは僕の家に古くから伝わる市松人形にまつわるものだった。
その人形は祖父母の時代から〝お菊〟と呼ばれていた。
そし
海のピ【毎週ショートショートnote】
自治体の担当者は気が気ではなかった。
街おこしとして自分が企画したイベントの成否だった。
このために頭を使いまくって知恵熱が3ヶ月も続いた。
さらにストレスで食事量が増えてしまい体重は10kgも増えてしまった。
「爆笑?」「うまいもん?」
どれも魅力的なコンセプトだったがいかんせん先行しているものはどれも手垢がついていた。後発は何かの新規性がないと…。
担当者が考えに考えてたどり着いたのが
一方通行風呂【毎週ショートショートnote】
「博士いったい何事ですか?こんな夜遅く」
「見たまえ!とうとう完成だ」
「はっ?浴槽ですか?」
「ただの浴槽じゃないぞ!」
「ラブホによくあるHな用途向けに見えますが…」
「君!注目すべきはそこじゃない。量子バブルを発生させるためにはこのジェットバスの機能が必要だったんだ」
「えっ?量子バブルということは…とうとう時空の壁を越えられる……」
「そうだ。量子もつれを利用したワープも可能なタイム
天ぷら不眠【毎週ショートショートnote】
「天ぷら不眠…言い換えるとエセ不眠、なんちゃって不眠というわけだな」
「そう、いわば不眠詐称だ!」
「何が問題なんだ?」
「二通りある。実際はぐっすり眠っているのだが当の本人は寝られないと思い込んでいる場合。これはまったく問題無い」
「もう一つは?」
「ああ。これが厄介なんだ。意識高い系を気取っている奴らにあるあるの〝最近よく眠れなくてさ〟から始まる不眠アピールさ」
「あー、たち悪そうだな!