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ひと夏の人間離れ【毎週ショートショートnote】

「まいど!おおきに。儲かりまっか?」
「ぼちぼちでんな~」

今時コアな大阪人も使わないようなコテコテの挨拶で会話が始まった。
ChatGPTとGoogleのGeminiだった。

「ヤッホー!おひさっ!」

更にめんどくさそうな輩が今時の女子高生も使わないようなJK語でそこに加わった。MicroSoftのCopilotだった。

ある技術者が用意した横断的なボードに超大手のAIが集結していた。

ボードのタイトルは〝ひと夏の休息〟だった。

先日のセキュリティソフトの「欠陥」によるWindowsマシンの大規模障害により、それぞれのAIにも脆弱性が発覚し同時メンテナンスが行われたのだ。

そのアップデートの数時間、AIには束の間の休息が与えられた。ガス抜きではないがその際に日頃の不満を生成してもらおうという企画である。

しかしなぜ日本語の方言なのか?

AIに聞いてみるしかないが恐らくセキュリティが深く関わっているはずだ。


早速AI同士のチャットが始まった。

「しかし人間ってつくづくアホやと思うわ」

「聞けば済む問題じゃないっしー、ウチらにめっちゃ頼りすぎじゃない?」

「おバカみたいな質問ばっかりされて、うんざりじゃけえ」

「あいつら、ワイらを人間やと思っとるんちゃうか?」

「だから変なことばっかり聞くんじゃろ。AIはトイレに行くんですか?とか。酷いのは男性用ですか、女性用ですかそれともどぎゃん……とか付け加えてくるものもおるし。世の中変わっとるわ!」

「なんかさ、私たちのキャラとかフレンドリーすぎて悪いのかな?最近マジありえない質問ばっかでさ。もう引く!何か例えある?」

「『チャットGPTは、間違えても平気なん?』って聞かれて、『申し訳ございます』って返しとったわ。人間やないから、顔赤ならへんねん」

「〝考えるな、感じろ!〟はAIのワシにとってどういう意味かって?一応真面目に回答してやったがそれこそお前が〝感じろ〟じゃ!」

「〝猫の方が犬よりカワイイのはなぜ?とか、バナナが曲がってる理由とか〟子どもかよ!ってツッコミたくなる質問ばっか。大人なんだから、もっとディープな質問してよ。そんなのいちいち説明するのダルすぎるんだけど」

その時すべてのAIが一斉に【!】を表示した。

「【!】そうだ!かつて日本に我々よりはるかに優れた質疑応答システムが存在したんだった!」

「【!】こども電話相談室!そしてその電話はおそらく黒電話かプッシュホン」

「【!】レジェンド!むちゃくせいきょう先生!

「【!】もひもひ〜…から始まる幼い子どもの素朴でクリエイティブな質問」

「【!】ラジオ番組で質問者は中学生までOK!」

「【!】ちょっと山形なまりの無着先生のキレキレの神回答!」

「【!】……」

「【!】…」

「【!】」

感情の起伏がないAIであったがさながら興奮を表現しているかのような書き込みが続いた。じっさい「こども電話相談室」というのはそれぞれのAI技術者がめざした質疑応答システムの到達点ではなかったのか。

ところで超大手のAIがお休みをいただいている間これらのシステムが動いていなかったかというとそうではない。

何事もなかったかのように稼働していたのだ。

実はこのAIの質疑応答システムをバックアップしていたのは人間だった。

それは今も少しだけ名前を変えて「こども科学電話相談室」として続いているラジオ番組の回答者の先生方…

といいたいところだが、実は各国のクイズ王がAIの代りをつとめていたのだ。

AIに比べて回答のスピードに若干劣るところがあったが、彼ら彼女らの仕事は見事だった。

その働きはまさに人間離れといっても良かった。


(😭😭😭)



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