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ときめきビザ【毎週ショートショートnote】

ある地下アイドルが妄想で自身の王国をつくりあげた。
入国審査は自らが担当するのだという。

ファンのオタク達はどよめき色めき立った。
SNSはざわめき、さまざまな情報が飛び交った。


「その査証は『ときめきビザ』と名付けられたらしい……」

「だがそのビザを持っていても彼女の質問に答えられないと入国できないんだ」

「スフィンクスみたいだな。だがまずはビザがないと」

「で、そいつはどこで手に入るんだ?」

「その王国の大使館に決まっているじゃないか!」

「だからその大使館はどこにあるんだよ?」


ボクは一瞬でひらめきオークションサイトにいってみた。

〝おっ……あるある……〟

予想通りだった。

そして『ときめきビザ』の出品を数えてみた。

〝入国できるのはたった10人か……いやそのあとの質問でさらに絞られるのかな……〟

そしてどれも1円スタートの設定だったが今の時点でかなりの高額だ。

ボクは貯金額を考慮して現状での精いっぱいの金額を入力した。どのくらい高額かというと💦のアイコンが10個ほどつくぐらいだ。

そして無事10人の落札者のなかの一人となった。


後日。

落札者はある事務所の一室に集められた。それにしても狭い部屋に10人がひしめきあっていた。ボクはわりと普通だったがぽっちゃり体型のものが多い。部屋の前方には長机が置かれている。

「それではこれより入国審査を始めます」

憧れのアイドルが入室をしてきて長机の真ん中に陣取った。

相変わらず可愛い。そして華奢だ。腰なんか折れそうなぐらい細い。そして堂々としている。なんといっても彼女は王国の女王なのだ。

「それでは通し番号一番の方、こちらにどうぞ」

落札した『ときめきビザ』には番号が振られていた。ボクのは10番だ。

「それでは問題です。無事正解ですと私の王国に入国できます。不正解ですと残念ながら今回は見送りとなります。次回の入国審査をお待ち下さい」

一息おいて張りのある声が部屋中に響き渡った。

「寝る前には手が1000本、朝起きたら手が999本。これ!な~んだ?」

アイドルがみずからタイマーをつとめはじめた。

「……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ」

制限時間はいったいどのくらいなんだろう……そして予想どおりの難問だ。

彼女の前に立った一番は汗びっしょりだった。首に巻いたタオルでしきりに顔を拭いている。

「………あ………あの………せ………せんじゅかん」

「ぶ、ぶ~。時間切れです、答えは寝違えた千手観音」

部屋の中にざわめきが起こった。

「それでは2番の方どうぞ」

2番が彼女の前に立った。

「いつもは足が0本、ときどき足が100本。これ!な~んだ?」

2番の後ろ姿からも気の毒なほどの緊張がうかがえる。

「……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ」

「……………………………………むかで?」

「残念でした~。ムカデのコスプレにはまったヘビ」


〝なんだこれは。落とすための審査か?〟

部屋にため息がもれはじめた。

〝不正解だと握手して終わりか…すると『ときめきビザ』というのはぶっちゃけ握手券のことか…〟

ちょっとお高いが握手券と考えれば気持ちに折り合いがつきそうだった。


握手会もボクを残すだけになった。ボクは丁寧に手のひらの汗をぬぐって彼女の前に立った。

「では問題です。朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これ!な~んだ?」

「えっ?」

「……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ……ちっ」

〝ちょっと待て…定番の問題じゃないか…何か裏があるのか…〟

ボクはさまざまなことを必死に考えぬいた。気持ち制限時間も長く感じられる。考えに考え抜いてボクはようやくひとことをはなった。

「人間……」

「正解です!入国が許可されました!」

「え~!」


部屋の9人が一斉にボクを見ていた。どの顔にも怪訝さと羨ましさが張り付いていた。

〝許可もあるんじゃないか!〟

〝なんでコイツだけ!〟

〝ずるい!〟

9人の心の叫びが聞こえてくるようだった。


ボクは有頂天だった。アイドルのお眼鏡にかなったのだ。イケメンでもなんでもないごく普通のボクが彼女に選ばれたのだ!

残りの9人は次回の審査を約束されてすごすごと帰って行った。


「これが私の王国の鍵です。いつでもどうぞ。私はこれにて失礼します」

手渡されたピンクの封筒には住所とマンションの鍵らしきものが入っていた。

〝いや、妄想という噂だったが実在するのか。早速行ってみよう。ひょっとしてアイドルは先回りして王国にいるのかな。憧れの彼女と二人きりになったりして……〟

ボクは急いだ。


電車を乗り継ぎ、とあるマンションの一室にたどり着いた。

『もふもふ王国』


玄関のドアにはそう書かれたプレートがきらめきを放っていた。

〝もふもふって……なんだろう?ひょっとして……〟

ドアを開けた瞬間それらが目に入ってきた。


ノルウェイジャン、マンチカン、ラグドール、ミヌエット、スコティッシュフォールド……

高級そうなネコが10匹余りくつろいでいた。圧巻だった。

ふとリビングのテーブルを見ると大判の封筒が置いてある。

ボクが封筒の中身を確認すると『お世話マニュアル』と書かれた冊子が入っていた。

「何てことだ……」



『ときめきビザ』というのは『労働ビザ』のことだった……


(😭😭😭2000字越え…😭😭)

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