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モンブラン失言【毎週ショートショートnote】

知る人ぞ知る霊能者の貞夫の新規事業は一点の不安を除いて絶好調だった。

霊能者の貞夫のフルネームは渡辺貞夫だ。ナベサダと呼ばれ親しまれ、たまにアベサダなどと、いいまつがえられたがその旧姓は山村だった。

ここで〝はっ〟と気がつくものもいるかもしれない。そう、あの山村貞子、〝貞子〟の係累なのだ。母親譲りの強力な霊能力は貞子にも勝るとも劣らないものだった。

その貞夫の新規事業のコンセプトは『生成AIを超越しろ!』だった。昨今のChatGPTやGemini、Copilotに真っ向から挑む、ある意味最先端の試みだった。だが技術的には旧来のものだ。そこに新しい価値をつけたところに新規性がある。

貞夫は名だたる万年筆を揃え、コンサルティングを始めた。ここにその万年筆のかつての愛用者を降ろすのだ。つまり降霊だ。そしてその者たちによるコンサルだった。そしてそのかつての愛用者といってもただものではないのはもうおわかりかと思う。至宝と言っても良いビッグネームだ。

例えば『パーカー』だったらアーサー・コナン・ドイル、ヘミングウェイや司馬遼太郎、藤沢周平、『ペリカン』であればトーマス・マン、井伏鱒二、井上ひさしなど……

圧巻は最高峰『モンブラン』だった。三島由紀夫、松本清張、開高健などの文豪にとどまらず、ケネディ大統領や安倍元首相など政治家や著名な実業家にも愛されていた。

そしてコンサルティングは筆談だったがクライアントはこういった偉人から万年筆を通してアドバイスが得られるのだ。このセッションが高額でも好評なのがうなずける。哲学的でもあり、文学的でもあり、なにより回答は含蓄に満ちていた。『生成AIを超越しろ!』も伊達ではなかった。

ただしクライアントが選べるのは万年筆のブランドだけ。誰が降りてくるのか?誰からアドバイスが貰えるのか?貞夫もこれには関与できなかった。

そして相談にやってくる実業家や政治家に一番人気なのも『モンブラン』だった。セッションの傾向はその万年筆のかつての愛用者を見ればわかる。

そして最近たまにバグが発生するのも『モンブラン』だった。天界から降りてくるのはモンブランの愛用者のはずだったのがどうやら数ヶ月前から愛用者ではない誰かが勘違いして降りてくるのだ。

つい最近も政界から〝信じろ〟だか〝信じるな〟みたいな名前の気鋭の若手政治家が総裁選に立候補するにあたってアドバイスを求めてやってきた。あわよくば安倍元首相の助言を期待していたのかもしれない。だがその時にそれが起きた。

悪いことにその若手政治家は何ら勘案することなく総裁選出馬声明でそのアドバイスをそのまま発言してしまったのだ。一部の世論はその発言をセクシーな宥和策だと評価したが、多くの国民には受け入れがたいものだった。

これはその事情を知るものから後にモンブラン失言と陰口をたたかれるようになる。

さて、貞夫がその失敗したセッションを後追いしたところ、なんと降りてきていたのは吉本の故坂田利夫師匠のようだった。

決め手になったのは次のやり取りである。


〝若手政治家が質問した。

『尖閣が攻められたらどうしたら良いか?』

貞夫の持ったモンブランがすらすらと動いた。

『アホアホミサイル発射!アホアホアホアホ…』〟


貞夫はその記録映像を見てがっくりと肩を落とした。セッション中はトランス状態のためまったく記憶が無かったのである。

事態を重く見た貞夫は、早急に動いた。坂田師匠が今後いたずら心を起こさないよう手を打つ必要があった。

『モンブラン』のセッション中、知合いの霊能者に同席して貰い対策することにしたのである。


ある日のこと……

貞夫はいつものようににルーティーンを始めた。

モンブランを持って何やら呪文を唱え、

「タァー!」

「キェー!」


と叫ぶと突然突っ伏した。

むくっと起き上がるとトランス状態だった。

クライアントが何か言う前にモンブランがすらすらと動いた。

『あんたバカね、オホホ〜』


ついに来た。同席の霊能者は身構えた。

「あなたはアホの坂田師匠ですか?」

『アヘアヘアヘアヘアヘアヘ…』

「えっ?」

坂田師匠は決してアホではなかった。仲の良かった寛平ちゃんのギャグで偽装しようとしていた。

『かい~の…ア〜メ…』


だが同席の霊能者もしっかりとしていた。

「師匠、もう結構です。師匠の芸もお友達の寛平ちゃんのギャグも充分堪能させていただきました。そこでお願いなのですがそろそろお帰りいただけませんでしょうか?」

それだけ伝えると同席の霊能者は、何やら呪文を唱えて九字を切った。

するとどうだ。


『あっりがっとさ〜んっ!』


突然貞夫が叫んで立ち上がり、両の掌を交互に切り返す坂田ウォーキング、いわゆる〝アホの坂田〟歩きでセッションルームから出て行ってしまった。

師匠ではなく貞夫がどこかに帰ってしまった…


(😭😭😭1900字越え。またやってしまいました。アヘアヘアヘ…)


変なお話になってしまいましたが師匠のおかげで無事今週も乗り切ることができました。感謝いたします。寛平さんにも感謝!師匠の分まで長生きして下さい!

いつ見ても〝出オチ〟の坂田師匠は永遠です!


たらはかに様の毎週ショートショートnoteに参加いたしました!




















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