第1話 【円盤のような金属板】 -100年後の蚤の市で見つけたモノ-
ここは100年後の蚤の市。
古い本や家具、大工道具なんかを扱う屋台が建ち並ぶ。
その一角、白い木綿布を敷いたテーブルの上に、雑然とモノが溢れている。
ふと、パーツのような形をした“不思議なモノ”に目が留まる。
これは一体、何に使うものだろう?
店主に訊ねるも、ニヤリとするばかりで教えてくれない。
なんだ、これ…
① 孔(あな)
板状で、丸。コースターみたいな円盤型だ。
「丸と言っても、柔らかい表情を出すために一枚ずつ手作業でつくっているから、完全な丸じゃなくて“ほぼ丸”なんだ」と店主は言う。
確かによくよく見ると“ほぼ丸”だ。
それと、中央に孔が開いている。
大昔、こんな形の記憶媒体があったらしく、それに似ていると店主は言うが、私にはよくわからない。
② 鈍く輝く
素材は真鍮。
鈍い黄金色で、時折、光が当たると柔らかい輝きを放っている。
「もともとはピカピカだったんだけど、経年変化で変色したんだ」と店主。
ピカピカだったと言っても、鏡のような光沢のあるものではなかったらしい。
鏡ではないのか…
③ 金属の重み
持ってみるとやっぱり金属、その見た目以上にずしりとくる。
60gぐらいらしい。
重しとして使えそうだが、掴むところがないので一度テーブルに直置きしてしまうと張り付いて取りにくい。
④ 手のひらサイズ
大きさは直径90mmとのことで、手の平の指を除いた部分くらい。
孔の大きさは直径8mmなので、指は入らない。
ペンもギリギリ入らないので、ペン立てでもない。
でも孔があるということは、ここに何かを通したくなるな…
⑤ 一緒に使うもの
なかなか答えの出ない様子に、店主が見かねて「これと一緒に使うんだよ」とあるものを差し出して来た。
空き瓶だ。
「空き瓶であればなんでも良いけど、お酒なんかのボトルより、ジャムみたいな口の大きなものの方が効果的でね」
「アレを金属板の孔に通して、空き瓶の上に重ねて…」
…
ああ、わかった!
答えは…
「一輪挿しですか?」と答えると、店主は手を叩いて喜んだ。
「孔は花を挿すためのもので、フラワースカーフと言うんだ」
店主が見せてくれた説明書きにはこう書いてあった。
空き瓶に花を挿したときに、傾いてしまう花。
そこで、この重みのある金属板で花を支えるというアイデア。
そしてこの金属板には、空き瓶のネジ口部分を隠すという役割も。
変色防止加工を施さずに仕上げているため、これまでの所有者たちが時間をかけて育てて、今の姿になったらしい。
「これは空き瓶を使うものだからね、摘んできた野花をさっと挿すような“気軽な花器”がテーマなんだよ」
そう言って、おもむろに後ろに咲いていたタンポポの綿毛を摘んでここに挿した。
「こうやってさ、スカーフを巻くみたいにさっとやるのがいいんだよ。」
あとがき
今回の「100年後の蚤の市」物語、いかがだったでしょうか?
86400"(はちろくよん)の山本です。
私たちは、東京の下町、荒川区を拠点に、まちの職人と一緒にものづくりを行うプロダクトデザインスタジオです。
ニューアンティークをスローガンに、育てながら長く使えるものをデザインしています。100年後の蚤の市に並ぶさまを夢見て。
86400"がつくるもの。
それは、◯、△、▢といった、単純な図形でできるもの。
傷が付いたり、変色したりしながら日常に溶け込むもの。
長く長く使ってもらうために、僕たちが大切にしていることです。
結果、パーツのようなものが出来上がってきますが、その単純さゆえか、はたまたニッチなシーンを想定した商品のためか、「パッと見て何かわからない」とよく言われてしまいます。
これは、現代の刹那的な販売のやりとりには不向きかもしれませんが、100年後の蚤の市に並んだときの店主とお客さんのやりとりはきっと面白いことになるに違いないとワクワクしています。
実際に100年後の蚤の市に並ぶさまを見ることは叶いそうにありませんが、ここに架空の蚤の市を開催して想いを馳せることにしました。
またのご来店、お待ちしています。
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