第2話 【山のような…アクセサリー?】 -100年後の蚤の市で見つけたモノ-
ここは100年後の蚤の市。
古い本や家具、大工道具なんかを扱う屋台が建ち並ぶ。
その一角、白い木綿布を敷いたテーブルの上に、雑然とモノが溢れている。
ふと、パーツのような形をした“不思議なモノ”に目が留まる。
これは一体、何に使うものだろう?
店主に訊ねるも、ニヤリとするばかりで教えてくれない。
なんだ、これ…
① 鈍く輝く
素材は真鍮。
鈍い黄金色で、時折、光が当たると柔らかい輝きを放っている。
「もともとはピカピカだったんだけど、経年変化で変色したんだ」と店主。
指紋のような跡はあまり見られず、全体がマットに変色している印象だ。
② 手のひらサイズ
大きさは縦横ともに15cmもないくらいだ。
片手で掴むのにちょうどいい形。
実際に掴んでみると、トゲトゲの間に指がかかってフォークボールでも投げられそうな具合だが、なにせ痛い。金属板を組み合わせて出来ているのだから当然だ。
指紋跡がないことからしても、手に持って使うものではなさそうだ。
③ 山々
三角が3つ並んだ形。
重ねられた三角の隙間に細い影が落ちて、薄い金属板ながらも立体感がある。
これは…山、というより連山か?
裏を見てみると、四角い金属板がネジで取り付けてある。
3箇所の小さな孔が開いていて、横から見ると「h」のような形に折り曲げてある。これはいかにも取り付け用の金具といった様子だ。なるほどなるほど、きっとこの小さな孔にピンを刺して壁に固定することで、三角の連山を浮き出させたいんだろう。
④ 逆
意を決して「これ、壁に飾る山ですね!」と答えると、
“やま”の“ま”の字も言い終えないうちに、「ブーー」と返ってきた。
「そもそも、それ向きが逆だよ」と言うと、トンガリが下になるようにくるっと回した。え、山じゃない?
「そう、この向きで、壁に取り付けて使うんだよ」と店主。
やっぱり、壁に取り付けるところまでは当たってたんだ。
半分当たってるんだから、惜しいと言って欲しいものだ。
店主は手頃な木の板に、実際に取り付けて見せてくれた。
裏の取り付け金具により、連山、もとい逆三角3つが浮き出している。
⑤ 一緒に使うもの
答えを待ちきれない様子の店主は「この裏の取り付け金具に、あるものを載せるんだよ」と言って差し出して来た。
お札(ふだ)だ。
…
ああ、わかった!
答えは…
「なるほど、お札立てですね」と答えると、店主は手を叩いて喜んだ。
「そう、その名も神棚と言うんだ」
店主が見せてくれた説明書きにはこう書いてあった。
背面の取り付け金具にあらかじめ開けた孔に押しピンを挿して壁に留める。そして、取り付け金具に引っ掛けるようにしてお札を載せて完成。
変色防止加工を施さずに仕上げているため、これまでの所有者たちが時間をかけて育てて、今の姿になったらしい。
「お札って、こういうところに飾るもんなんだよ。」
そう言って、店主は神棚を高いところに飾ってくれた。
なるほど、高いところにあると、より浮遊感のある印象。
「これ山じゃなくて、雲なんですね。」と僕。
そうすると、店主はもう一回手を叩いて喜んだ。
「神さまは雲の上の存在なんだから、な」
あとがき
今回の「100年後の蚤の市」物語、いかがだったでしょうか?
86400"(はちろくよん)の山本です。
私たちは、東京の下町、荒川区を拠点に、まちの職人と一緒にものづくりを行うプロダクトデザインスタジオです。
ニューアンティークをスローガンに、育てながら長く使えるものをデザインしています。100年後の蚤の市に並ぶさまを夢見て。
86400"がつくるもの。
それは、◯、△、▢といった、単純な図形でできるもの。
傷が付いたり、変色したりしながら日常に溶け込むもの。
長く長く使ってもらうために、僕たちが大切にしていることです。
結果、パーツのようなものが出来上がってきますが、その単純さゆえか、はたまたニッチなシーンを想定した商品のためか、「パッと見て何かわからない」とよく言われてしまいます。
これは、現代の刹那的な販売のやりとりには不向きかもしれませんが、100年後の蚤の市に並んだときの店主とお客さんのやりとりはきっと面白いことになるに違いないとワクワクしています。
実際に100年後の蚤の市に並ぶさまを見ることは叶いそうにありませんが、ここに架空の蚤の市を開催して想いを馳せることにしました。
またのご来店、お待ちしています。
神棚についてはこちら
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