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わたしのマトカ

『かもめ食堂』でフィンランドに行った時の企画だからフィンランドの話ばかりかと思いきや、ひょんなことから色んな国への旅話が読めて面白い。

片桐さんの言葉選びのセンスや発想がもはや芸人並み。
読んでいるとあの片桐さんの顔が浮かんできて、どんなふうに体験しているのかすごく想像できたし、読み進めるのが楽しかった。

特に気に入ったエピソードをいくつか挙げてみる。


〈わたしのそばにいて〉
ヘルシンキのハカニエミにあるアジア系食材店での出来事。海外で母国の食材を探す一苦労と、手に入れた時の喜びをユーモアたっぷりに語っている。

ピータンを買うためにはどうしても社長に直談判しなければならないらしい。(中略)わたしはそのプレジデント・ピータンを箱ごと六個買った。

わたしは手に入れたにらの束を高くかかげて走りだしたい気分だった。聖火ランナーのように。

まだ"海外で母国の味"体験をしたことはないが、おそらく自分なら顔は表情を崩さぬよう注意しつつ心の中で歓喜のガッツポーズをするだろう。


〈芸術家の夜〉
演劇や映画が好きな片桐さんらしく、劇場でつい観客の年齢層や様子を気にしてしまう観察眼や、フィンランドの人々の無表情と笑いについての考察もなかなか他では読めないところかなと思った。

奇しくもわたしは、北欧フィンランドで、三大喜劇王のうちのふたり身内、チャップリンの孫と、大勢のバスター・キートンの子孫たちに出会い、笑いの真髄について学んでしまった。

劇場で色んな芸術に触れてみたいなと思わせてくれた。音楽はたまに体験しに行くが舞台などは未経験なので、これはぜひ片桐さん出演のものを見てみたいと思った。

〈ファーム・ステイ3 ファーム・アローン〉
他人の家で一人の状況で同じことが起こったらと思うと恐怖なのだが、これを読んでる時はドラマを見ているような、パニックにパニックが重なる展開がとても面白かった。
必死の片桐さんの様子が目に浮かぶ。

わたしはほとんどパニックの状態で、風呂場の扉を叩きながら叫んだ。
「ごめん!やめて!すみません!行って!去って!」

旅にハプニングは付きものと言われるが、確かに旅先での大変な思いは時間が経っても思い出せるし「あの時は本当にやばかったなぁ」と笑えてくるものである。ぜんぶいい思い出なのだ。


またどこかで片桐さんの旅エッセイが読みたい。続編希望。


出典:『わたしのマトカ』片桐はいり
   幻冬舎

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