悠|haruka

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本を中心に、自分がいいなと感じた作品について書いています。 Instagramでは喫茶店来訪記を投稿中。 https://instagram.com/haruka.8240_kuma?igshid=MzNlNGNkZWQ4Mg==

最近の記事

父ちゃんの料理教室

作家であり音楽家である辻仁成氏。在仏20年以上ともなるともはやフランス人のようである。美味しいものを作って食べて、街の人々とコミュニケーションを楽しみ、自由に生きる。 テレビ番組や彼のウェブマガジン・design storiesから彼を知り、たびたび追ってきた。 料理と美味しいものを愛する辻氏が息子のために料理を教えているようなレシピ本がこの本である。 息子に語りかけているような文章と、シンプルだけど素材にこだわり丁寧に作った料理がいくつも載っている。 各料理の文章のうち

    • 谷川俊太郎質問箱

      "質問"という行為そのものは日常的に無意識で誰もがやっている。 それを詩人に聞いてみたらどんな答えが返ってくるのか。 webサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」で2006~7年に連載された、読者が谷川氏に質問を投げかけそれに答えるというやりとりを収録した一冊。 谷川俊太郎氏といえば小学校の国語の教科書を真っ先に思い出す。有名な詩人である、ということ以外パッと頭に浮かばない自分が少し恥ずかしい。国語の教科書は授業以外でも好きで読んでいたはずなのだが…。 質問の内容は多種多様。性格の

      • 雨夜の星をさがして

        日本には四季がある。春夏秋冬それぞれの風景や季節のうつろいを感じる時、それを表すことができる言葉もまた存在する。 日本人は古来から四季の美しさを言葉にして残してきた。この本はそんな言葉たちを集め、写真とともに載せたものである。 言葉そのものの意味だけでなくその由来や背景、さらに著者が言葉から感じた思いも説明文に綴られており、辞書としての役割もありながらひとつの読み物としても良い。 そして写真の美しさが言葉をより際立たせている。陰影のある風景や日常の一コマのような写真からは日

        • いかれた慕情

          『常識のない喫茶店』、『書きたい生活』と読んですっかり彼女の文章に引き込まれてしまっている。今回は2018年に一度ZINEとして発行されたものに書き下ろしを加えた一冊である。 26篇のエッセイは、日記のようなものから連作小説風、詩的な文章まで様々な形をしている。現在・過去と時間を行ったり来たりしながら彼女の人生のワンシーンを覗き見ているような感覚になった。 各篇でぽつぽつと書かれていたのは、彼女がずっと感じていた苦しみだ。 「死にたい」と何度も思ったりお酒や煙草に浸った

        父ちゃんの料理教室

          ぱっちり、朝ごはん

          朝ごはんが好きだ。 目が覚めた瞬間まず何を食べようか考えている。というか前日の夜からすでに「明日の朝はこれとこれを食べよう」と目星をつけておく。 朝は食事ができないという人もいるが自分はそういうことはほぼ無く、一日の中でも一番食欲が湧く。朝食べるなら丸一日かけてエネルギー消費できるからちょっとくらい食べ過ぎても大丈夫、という心持ちがありがたい。常に食べたいと太りたくないという葛藤に頭を悩ませている自分にとってこの安心感は重要だ。 朝ごはん好きは作家たちにも多くいるようで、3

          ぱっちり、朝ごはん

          とわの庭

          何も見えない世界とはどんなものだろう。晴眼者の自分には、夜の暗闇の中で目を閉じた時くらいでしかそれを感じることはできない。 "見える"世界が当たり前の自分がいるように、"見えない"世界が当たり前の誰かもまたいる。 物語は母と娘の穏やかな日常の場面から始まる。〈とわのあい〉で結ばれているという二人はいつも一緒。黒歌鳥合唱団のコーラスが朝を知らせ、手作りのごはんを食卓で囲み、本の読み聞かせをする。本当にあたたかな家族像そのものだった。 しかしその日常はじわじわと変わっていく。母

          アンパンマンの遺書

          幼い頃に見た絵本やアニメの中で記憶に残っているのはやはりアンパンマンだと思う。キャラクターの名前も言えるしアニメ映画の断片も頭に残っている(クリスマスでホラーマンと黒いロールパンナちゃんが出てきた)。 今でもTVアニメが毎週放送されていて、書店の子ども本コーナーでもアンパンマンの棚が一番広い。長く愛されているんだなとしみじみ思う。 そんなアンパンマンの生みの親・やなせたか氏の自伝本である。 彼がアンパンマンを誕生させたのは54歳の時で、それまでは広告漫画や舞台演出など多種

          アンパンマンの遺書

          きのう何食べた?season2

          2019年のシーズン1からSPや映画も見ており、シーズン2の放送が決定した時は「そうかそうか、またやってくれるのね」と穏やかな喜びを感じた。 弁護士のシロさんとその恋人で美容師のケンジの二人暮らしを中心に、それぞれの職場や両親、友人たちとのあたたかな日常が描かれている。 よしながふみ原作は読んでいないのだが、ドラマ単体でもその物語の良さが十分に伝わってくる。 シーズン2では今までよりも、シロさんがケンジへ向けた想いが丁寧に描かれている感じがする。 50代になったシロさんが

          きのう何食べた?season2

          誰も知らない世界のことわざ

          ことわざとはある現象や状態を比喩して表現した言葉。 世界各国さまざまなことわざがあり、それはその国の文化や生活がベースとなる。 そんな世界のことわざを集めた一冊。 気に入った言葉を紹介する。 『エビサンドにのってすべっていく。』 スウェーデンの人々にとって、エビサンドは彼らの文化ととても大切な関係にあるもの。そんなエビサンドにのって滑らかにすべっていくということは働くことなく安楽に暮らしていることを表している。 日本で表すなら、「おむすびにのってすべっていく」だろうか。と

          誰も知らない世界のことわざ

          荒地の家族

          3月11日。 この日付を見るだけで当時の記憶が蘇る。長い揺れと停電、テレビ中継で流れ続けた瓦礫の山と襲いかかった海の映像。 あの日以来、小さな揺れでもとても怖くなっている。 宮城県亘理町に暮らす植木屋の男・祐治とその家族や周囲の人々に起こった出来事を静かに、しかし暗い影をまといながら物語は進む。 あの日の出来事を作中では"災厄"であり"海の膨張"と呼ぶ。主人公の祐治は様々な場面であの日を思い出す、その描写が生々しい。 揺れた瞬間の人々の焦りや戸惑い、海が襲ってくるという半

          荒地の家族

          木を見る西洋人 森を見る東洋人

          先日、日本人と外国人の両親をもつ20代の方と会う機会があり、グループの中での会話だったが少し話ができた。彼は流暢な日本語で住んだことのある海外での生活を色々話してくれた。 そういうことがあり、日本人以外の人はどんな考えを持っているのだろうかと気になってこの本を読んでみることにした。 心理学の大学教授である著者が様々な実験や日常生活の中で垣間見える事例を挙げながら、東洋人(主に日本・中国・韓国人)と西洋人(主にアメリカ人)にどのような思考の違いがあるのかを述べている。 まず

          木を見る西洋人 森を見る東洋人

          すてきなあなたに

          1946年に衣裳研究所として始まり、現在まで『暮しの手帖』を軸にすてきな暮らしの提案してきた暮しの手帖社。 その初代社長である大橋鎭子が綴ったエッセイをまとめた本で、1969〜1974年までのものが収録されている。 戦後の復興から高度経済成長期へと進む時代の片隅で、市井の日常のちょとした出来事に目を向けている。起こることは小さなことでも生活の知恵やどんな感情が生まれたか、日々のメモのような印象である。 気に入った話をいくつか紹介する。 〈ポットに一つ あなたに一つ〉 一

          すてきなあなたに

          廃墟建築士

          一目惚れだった。 古本として置かれたこの本に真っ直ぐに惹かれ、手をのばした。 まずタイトル。学生時代に建築分野を専攻していた自分にとって「建築士」と言うワードそのものが刺さった。そういえば建築を題材にした小説って読んだことないし、そもそも珍しいのではと思った。 次に装丁。建築を学んだ者なら慣れ親しんだ水色の方眼紙、トレーシングペーパーのような手触りが懐かしい。鉛筆で書いたような文字やイラストも自分の記憶を呼び起こしてくれた。しかも、これは読了後に気づいたことだが、表紙を外す

          廃墟建築士

          書きたい生活

          この本に出会ったのはブックカフェだった。 まず表紙のインパクトに目を奪われ、著者をチェックするとあの『常識のない喫茶店』を書いた方だったかと納得。 前作の後日談と、著者のこれからに向けて日々過ごしていく様子を綴った日記エッセイである。 『常識のない喫茶店』を読んだときは、きっと機敏にお客さんを捌くしっかり者ではっきり意見の言える人なんだろうなと思っていた。 もちろんそういう一面もあろうが、自分の周りにいる人をすごく大切に想っていて、繊細で感受性がとても豊かな人なんだなという

          書きたい生活

          喫茶店百科大図鑑

          東京喫茶店研究所所長の沼田元氣氏がカメラとペンをもって制作した、喫茶店にまつわる101の項目(百科なのに100じゃないひねくれ具合がいい)を取り上げている。 〈1 喫茶店とは〉から始まり本・音楽・映画との関係、建物やインテリアのこだわり、特色ある店など様々な角度から喫茶店を分析し、沼田氏の独特な表現で解説されている。どの項目から読んでもよく、パラっと開いたところから目を通してみたり、目次や索引から興味あるところを選んでみたり、気軽に手に取れるのが楽しい。 101ある項目の

          喫茶店百科大図鑑

          ジャパン・ディグニティ/バカ塗りの娘

          2023年9月1日に全国公開された映画『バカ塗りの娘』。津軽塗を題材に、職人の父娘を描いた作品である。 そしてこの映画の原作である小説『ジャパン・ディグニティ』。作者は青森県出身で地元を舞台にした既刊作もいくつかある。 今回は小説と映画それぞれの感想と、作品に込められた共通点についても書いていこうと思う。 ジャパン・ディグニティ 日本各地には様々な伝統工芸品があり、どれも職人が時間と手間をかけて作り上げる。 青森県弘前市で主に作られてきた津軽塗は、塗っては研ぐを繰り返し

          ジャパン・ディグニティ/バカ塗りの娘