ハンフィクション〜生と死の間にある老いと病いを見つめる場所

爺様の事が大好きな担当職員が3月から異動する前に亡くなった。
まだ生きていて欲しいと願ったその職員が夜勤明けで退勤してから亡くなった。
世話焼き婆様達から愛された爺様は、亡くなる前夜に手を握られ顔をさすられてる時に大粒の涙を流した。
喋れなくても反応できなくても聞こえていないように見えても、最後まで死に様という生き様で表現してくれた。
看取ってあげたいと望んでいた看護師が出勤した日に亡くなった。
もうじゅうぶん面倒見たから最期立ち会わなくても大丈夫な職員が遠出してる時に亡くなった。
みんなに見守られて亡くなりみんなに見守られて出棺した。
男性スタッフと外部のケアマネさんがお風呂に入れてくれて看護師が死後の処置を丁寧にしてくれた。
妹さんが会いに来てくれた数分後に亡くなった。
お姉さんは足が悪くて来れないから亡くなる2日前に自宅まで爺様を車で連れて行った。なんとなく今会わせないともう会えない気がしたから。6年も一緒にいるとなんとなくわかる。なんとなくわかる。

ドラマみたいでしょ。
ドラマよりドラマなの。
介護現場って。

点滴もしないとさ

本当に枯れるように亡くなっていく。

無理して生きようと足掻かないから

ゆっくりゆっくり呼吸をして

身体の水分を全部使い切って出し切って

ゆるゆると亡くなっていく。

苦しまない穏やかな死は凄いよ。

眠るようにスヤスヤと

こっくんこっくんと

息が穏やかになっていく

夜中に心配でTV電話してきた夜勤スタッフ

お爺さん苦しそうなんです。

大丈夫。苦しそうに見えるだけで、食べたり飲まなくなった身体が最後の力を振り絞って呼吸してるだけだから、横向きの下の肩が苦しくないように抜いてあげて。唇だけ濡らしたガーゼで湿らせてあげて。手首の脈が触れなくなったら血圧90ない状態だから教えて。夜触った時はまだ力強かったから。もし亡くなっても大丈夫だから、たくさん話しかけてたくさん触って、たくさん見てあげてね。隣で寝てもいいよ。はいこんちょの看取りの合言葉はね、測定よりも触ってえ。

わかりました。ありがとうございます!

めっちゃ眠くて、半目で話してたと思う。

またいつでも電話やLINEしてきていいからねと伝えた5秒後には寝てた。

この余裕はさ、本人も家族も医師もケアマネもスタッフもご近所も他のお年寄り達も、みんな(いつくるのか)待ってる状態だからなんだよね。

これがもし、死んじゃいけなくて、1分でもI秒でも長生きさせる名目で死なせないケアだと、余裕がなくなる。
一朝一夕にはいかなくて、6年間かけて、お爺さんと家族と僕らで作り上げてきた介護だからできる。
お泊まりの素晴らしいところは、お爺さんの介護を長い期間苦楽を共にして仲間になり最期まで見れるところ。

僕らには大した知識も技術もない。
あるのは、時間をかけて作ってきた関係だ。
今の世の中では軽視されてきている価値観。
手間暇かけて作り上げた介護は凄いよ。
家族から相談されるんだ。
最期どうしたらいいでしょうか?
延命する選択もありますしはいこんちょで看取る選択もあります。
小林さんならどうしますか?
えー!うーん。僕ならですよ、僕ならずっと一緒に過ごしてきた顔見知りの人達の中で死にたいかな。お爺さんは元気な頃は周りを助けてくれて認知症深くなってからは職員が毎日マンツーマンで見てくれて最期は世話焼きの婆様達から可愛がられて、そんな場所で最期を迎えたらお爺さんはきっと喜ぶと思う。僕はですよ。
そうですか。じゃあそうします。だって6年もそばで見てきてくれたはいこんちょさんがそう言うなら間違いないと思います。
うわー責任重大。笑 もちろん意思が変わってもいいですからね。その時は遠慮なく言ってくださいね。
わかりました。

こんなやりとりをI年間で何回もしてきました。

親戚にも毎回ちゃんと伝えてくれました。

だからずっとみんなでその時がくるのを待てました。

生まれてから休まず動いてきた時計の針が止まる

認知症の婆様達は、瞼広げたりおでこ叩いて泣きながら起こす。

一歳の息子はバイバイねと手を振る。

星影のワルツをみんなで唄う

湯灌してる時は、シャイな爺様が唯一カラオケで唄った河島英五の酒と泪と男と女を流す。

コロナ禍でも家族も一緒にお別れできて本当に良かった

たくさんの人達に見守られて逝った

いい最期だった

これをいい最期と言わずにどれをいい最期と言うのだろう

晴天に恵まれた日曜日のお昼

みんなでうどんを食べた

残さず食べた

生と死を見つめられる人達はつよい。

笑い声と泣き声は相反しない。

手と目と耳で感じて

又いつか会いましょう

とお別れすることを

看取りと呼ぶ

自分らしく旅立つ支援のことを

自立支援と呼ぶ

それが僕らの介護なのだ。

たとえ時代遅れと言われても。

合掌。

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