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見えない喜びがキラキラと踊っている

なんとなく水族館に寄ってきた
とある夏の夕暮れのこと。

エスカレーターを登ると
下の階と繋がった
吹き抜けエリアがあった。

プロジェクトマッピング映像が
流れる巨大な球体が
フロアの中心に配置されている。

さながら宇宙や命のイメージだろうか。
壮大で幻想的なベクトルの雰囲気だ。

惰性的または義務感から近くまで寄り、
携帯を取り出して写真と動画を撮る。

程なくして、エリアの入り口方向から
勢いよくスキップで近づいてきた
女の子の気配と
その後を追いかけてやってくる
ご両親との話し声が背後から
ふんわりと入ってきた。

「観て、あそこになんかやっているよ!
 キラキラしてる!」

タタタタタタタタタタ(≧∀≦)
しかし止まることを知らぬ風の女の子は
そのまま駆け抜ける。

「え、あ、観ないの?
 あそこ行ったらここ出じゃうよ」

「ん! 観ない! いい(≧∀≦)!」

軽やかな素通りが続行中。
後を追いかけるご両親の足音も合流する。

目の前では
宇宙がひと通り始まって終わる感じの
プログラムが終わり、今度は
白黒モダンな映像が流れ始める。

分かる気がしなくもない。
あれだけどーんと主役だよという雰囲気で
作られたら
観るポーズだけでもしておくのが
空気を読む大人の性なのかもしれない。
純朴な「そういうものだから」と
直ちに空気を読んで
作り側のコストだの
チケット代の元だの
などといろいろ思考が動き回るものだ。

お金を払うほど
客は気を遣ってしまうことはある。
そして子どもはそこら辺の
しがらみに縛られていない。

ただこういう、目玉展示が
完全スルーされることがあるならば
一歩引いて考えることができる。
水族館系の施設に
本当に脅迫的にイマドキ風映像演出を
ねじ込まないといけないかについて、だ。
微妙かも。

需要のコスパで考えてみたら
そんなのが観たければ
水要素のあるチームラボに
行ったほうが早いし元取れると
思ってしまう人も出てきそうだ。

なんてことを考えているうちに
飽きたので撮影ボタンを切り
出口方向に向かう。

身体の回転がまだ
完全終了していないところを
タタタタと目の前を
先程の女の子が駆けてきて通り過ぎる。
先ほど一直線に駆けていった
出口に背を向けて。

風のような勢いだったので
これがアメコミ4コマだったら
私は風を受けてコマみたいにぐるぐるする
お約束のモーションをしていたわ。

「あれ?」と言いつつ
すぐに我が子の後を
追いかけて戻ってくるご両親も目の前を通る。

「やっぱり映像観てく?」

「お魚!!!! お魚泳いでる(≧∀≦)!!」

「お魚いないよ?
 この部屋水槽ないからね」

「キャッキャ! お魚(≧∀≦)!」

タタタタタ。ドーンo(^-^)o!
すぐ近くで
お魚探し隊長さんは
指定座標に到着したご様子。

一見、何かがあるわけでもなく、
真ん中の球も見てなさそうな向きの
絶妙に暗くて中途半端な場所だ。

しかしワクワクの気配がすごい。

突如、音もなく何処からともなく
さらさらと白銀の群れが足下から流れた。

小川に交わる白銀の水流の場所を陣取り、
両足で涼やかな煌めきを纏う少女が
エヘヘと笑っている。

じっくり見てみると
現れては消えるお魚の水流は
フロアの数箇所に一定間隔で
再生されているループエフェクトだと
すぐ理解した。
女の子の立つ位置の近くから現れ、
しばらく床で泳いだ後壁へ登り、
天井近くで消えて、
また少し経つと最初の位置に
出現して、繰り返す。

それは空間演出の一部として
ずっと流れていた。
間隔がすこし長いとはいえ、
「ずっとそこにある」ものだ。

驚いた。まるで気づかなかった。
ここで5分以上滞在したのに、
1ミリもそれを認識しなかった。
女の子の両親も驚きながら見守っている。

水槽の外でスタイリッシュに泳ぐお魚を
この目ではキャッチできなかった。

女の子が一通り魚エフェクトが
流れる床を踏んで遊んで満足すると
その家族が次のエリアへ向かって去っていた。

私は静かに魚の泳ぐエフェクトの
渓流の床に移動して楽しんだ。
暗いフロアを見渡すと、
やっぱり、誰もここに気づく素振りはない。

ショックをかみしめている。
存在しない郷愁に襲われるような落胆なのか
大人の世界のはみ出し者で
馴染めない想いに慣れ親しんでいても
反って大人の世界の価値観や
知識が染みついて
もう戻れない寂しさなのか。

まあ、冷静を取り戻すため
無理に大人の視点で考えてみる
蛇足をつけよう。

女の子に啓発された部分は多かったが、
中央のボウルはなんだか退屈に感じられた。

もしかしたら、ゲームでも小説でも
よく見られる現象と同じで、
何か皆まで説明されたり、
制作側が見てほしいものが
目立ちすぎる形で用意されたりするほど
受け手は白けて不承不承に
作業としてやるあの現象。

探索が作業と化すると面白くない。
おそらく多くの人たちにスルーされてしまうが
ささやかな脇役の魚空間エフェクトのほうが
発見の喜びを正解しているかもしれない。

そういう意味でいうと、
加工されたとはいえ、自然が泳ぐ水槽は
見ようと思えば無限に発見の楽しみがある。
デジタルは簡略化されたものだと
改めて噛みしめてしまう。

あの日のお気に入りは、
透明水槽の壁面に沿って上
不器用に昇ろうとするが
しんどくなりすぎて
5秒前後で必ずやる気を失って力が抜けて
力なく底まで落ちてくるエイです。

うぃっしょ……うぃっしょ! う、うう……やっぱりしんどいわ……ぱたり

はあああああ、分かるわ~~~~
わかりみしかない!

もちろんそう見えたのも人間の
愚かさ故の結果かもしれないが、
かわいくてたまらんぱたん。


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