第20回: 戦略的に世代について考える
2021年3月3日掲載
世界各国で新型コロナウイルス感染症(COVID19)のワクチン接種が始まり、世界は再び動き始めました。日本のインバウンド業界もウイズ・ポストコロナを見据えて準備を進めています。そうした中、議論されているのが「誰から戻ってくるのか」です。どんな旅行客が再び訪日してくれるのか。そのためにどんな準備が必要なのか。議論は往々にして国別に偏りがちですが、果たしてそれは誘客するのに効果的なのでしょうか。
同世代であればもっと伝わる
新型コロナはインバウンド業界にも新たなサービスをもたらしました。その一つとしてオンラインツアーがあります。インターネットを使ってバーチャル空間で擬似的に観光地を巡る新たな旅行商品ですが、中にはリアルなお土産付きのツアーもあって人気になっています。
私が参加したいくつかのオンラインツアーでは20~30歳代と思われる女性が多く、みなさんZOOM(オンライン会議システム)の使い方にも慣れていらっしゃいました。聞くと「SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で目を引く写真は同世代から情報を得ている」とのこと。ふと50歳代の私は、若い世代にアプローチできているのか、私のような中年は誰を対象に誘客できるのかと考えさせられました。
そこで、私世代が中心の国というのはどこなのかを考えてみます。上のグラフは各国の「中位年齢」を示しています。中位年齢とは人口を年齢順に並べた際に全人口を二等分する境界点にある年齢を示します。日本は48.36歳で世界最高齢です。続いてイタリア、ポルトガル、ドイツといった欧州諸国が続いており、つまりこれらの国は半分以上が50歳以上だと考えられます。52歳の私が誘客するのであれば、同世代であるこれらの国々が適しているのかもしれません。
訪日客の7割を占めていた東アジア諸国はどうでしょうか。香港、韓国、台湾は40歳代半ば、中国は30歳代後半といったところです。年齢的に見ると日本より3歳から10歳くらい後輩といったところです。同世代と言うと無理がありますが「年齢が違いすぎて話が合わない」といったことはないと思います。
では他国はどうでしょうか。先進国は40歳ですが世界は30歳です。30歳というと日本と20年ほどの差があります。この場合、例えるなら自分たちの子供世代に売り込んでいるようなもの。それで果たして彼らに響くのでしょうか。
留学生や在住者は日本の強力な応援団
ではどうすれば良いでしょうか。私は同世代の日本人と外国人在住者の連合チームでの対応をお勧めします。学生か社会人かに関わらず、昨今の20~30歳代の人たちは横のつながりを構築するのが上手です。いわゆる薄く広いつながりを得意としているとも言えるのですが、皆で何かに貢献したいという意識は私たち中年世代よりも強いと感じます。
現に新設した弊社グループの人財紹介会社(キャリアダイバーシティ株式会社)では、留学生と日本人学生でチームを組み、さまざまなプロジェクトで成果を挙げています。お互いの言語を教え合ったり、日本から海外へのテストマーケティングを行ったり。同じ世代だからこそ分かり合える世界観でビジネスを創っています。
留学生や在住者は訪日客と同じく東アジア諸国出身の方が多いのですが、若年層が多いのが特徴です。留学生の約65%は日本での就職を諦め自国または他国で就職してしまうのですが、実は彼らの大半は日本で働きたいと希望しています(※1)。こうした留学生や外国人在住者の強みを取り入れることができれば、日本で職を得て定住する人も増えるはずです。したがって事業者としては、彼らに就業機会を提供していくこと、つまりそれは日本人が外国人から学ぶ機会を提供してもらうことが重要なのです。
未来の上客
最後に未来の上客を探ってみましょう。これから伸びる市場への取り組みを考える上で興味深いデータがあります。下のグラフは2012年から17年の間に純資産3,000万米ドル(約32億円)以上の富裕層が増えた国のランキングです。新興国の成長率は数字が大きく出る傾向にありますが、それにしても意外な国が伸びていると感じます。
10カ国中6カ国はアジア諸国で、訪日客としてはまだ少ないバングラデシュ、インド、パキスタンがランクインしています。30年の人口は、バングラデシュは1億8,000万人(世界8位)、インドは15億人(世界1位)、パキスタンは2億5,000万人(世界6位)と予測されています(※2)ので、ムスリム(イスラム教徒)大国としても知られるこれらの国々へのアプローチも早晩強化されることでしょう。
日本在住でこうした国の出身者と今から親しくしておけば、将来日本の上客にもなってくれるかもしれません。私たちの世代はあまり馴染みがないこれらの国々ですが、今の大学生や若年層は交流があります。世代が近い者同士であれば世界観は共有しやすく各国との国交にも貢献できます。
求められているのは多様なアプローチ、多様な価値観です。打算的ではなく戦略的に、まずは若者世代から学ぶことから始めましょう。
※1「2018(平成30)年度外国人留学生進路状況・学位授与状況調査結果」 (令和2年5月(独)日本学生支援機構)
※2「Population 2030」The United Nations(国連)
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