シベリ・アンハスキー

ナンセンス×シュール×0

シベリ・アンハスキー

ナンセンス×シュール×0

最近の記事

  • 固定された記事

早熟

「人の好みというものは、結局いくつになっても、若い頃に好きだったもの、心動かされたものに回帰していくものなんじゃないかな」 「君の言いたいこともわかるよ。でもそれは、ある種のノスタルジーに浸っているだけであって、人間の性質というよりは、一時的な心の状態を表しているだけなんじゃないかな」 「レンくん、ハルトくん。お昼寝の時間なんだから、お話してないでお休みしましょうね」

    • 無限老人ホテル

      出張で関西方面へ行ったときに、某中核駅の裏手にあるビジネスホテルに泊まった。 接待が長引き、チェックインは遅い時間になった。早く部屋に行って休みたかった。部屋は七階だったのでエレベーターを待ったが、なかなか下まで降りてこない。どうやら各階で止まっているようだ。こんな時間に下に降りてくる客がそんなにいるとは思えない。誰かが悪戯ですべてのボタンを押したのだろう。こんなことをするのは非常識な若者に違いない。疲労もあり、私は苛立ち始めた。 数分後にエレベーターがようやく降りてきた

      • 無味無臭の老人

        我々が食べているあらゆる食材は、歴史上、誰かが最初に食べて安全性を確認した。それを積み重ね、人類は食べられるものと食べられないものを判別してきた。 ある男がキノコを採りに山に入った。すると松の木の周囲に老人が群生しているのを見つけた。見たことのない種類の老人だった。男は一本の老人を根っこごと抜き取り、臭いを嗅いだ。臭いはしなかった。次に男は老人を一口かじってみた。味はしなかった。体調に変化がないかしばらく様子を見ていたが、何も起こらなかった。男は安心し、他にも数本老人を抜き

        • ワクチン接種会場

          私はワクチン接種会場に来ていた。 何のワクチンかは分からない。チラシを見て記念品に釣られて来ただけだ。 来場者は老人が多いようだ。むしろ私以外は皆老人と言ってもよい。 私は列に並んだ。前方を見ると、注射を打たれた老人が次々に死んでいるようだ。 私は記念品のことで頭がいっぱいだったので特に気にしなかった。 私の番まで後二人というところで看護師が話し掛けてきた。 「すみませんが、遺体を運ぶのを手伝っていただけないでしょうか。死者の数が予想よりも多くなってしまいまして」

          「咄嗟に隠し録りができるのは咄嗟に隠し録りすることに慣れている人間だけである」

          「咄嗟に隠し録りができるのは咄嗟に隠し録りすることに慣れている人間だけである」

          初夏の公園

          子どもが砂場で遊んでいた。 母親が近くのベンチでそれを眺めている。 子どもは山づくりに夢中になっている。 母親が少し居眠りをすると、足もとから夥しい数の蟻がよじ登って来た。 蟻はあっという間に数十万匹、数百万匹に増えた。 母親が目を覚ます間もなく、蟻は母親の全身を覆ってしまった。 母親は巨大な海ぶどうのようになった。 数分もすると、蟻の体から出された液体のようなもので母親は溶けてすっかり消えてしまった。 子どもは山をつくっていた。 私はお腹が空いたので、いつ

          フレミング氏の喧騒

          「ミスター・フレミング!」 通りの向こうからそう叫ぶ声が聞こえた。フレミング氏は声のしたほうに目をやり、知った顔を探した。 ほぼ同時に、近くにいた別のフレミング氏も振り返った。 さらに第三のフレミング氏も顔を上げて周囲を見回した。 三人のフレミング氏が声の主を探していると、細路地から現れた別のフレミング氏が「私を呼んだのは誰ですか?」と言った。 そのときマンホールから、水道管が破裂したように大量のフレミング氏が噴出した。 ビルの屋上からは次々とフレミング氏が飛び降

          フレミング氏の喧騒

          噛み合わない面接

          「志望理由をお聞かせください」 面接官がそう言うと、応募者は鞄からハンマーを取り出し、窓ガラスを叩き割ってそのまま飛び降りた。ビルの十五階だったので、おそらくこの応募者は死んだだろう。 面接官は廊下で待機していた次の応募者を呼び入れ、再び「志望理由をお聞かせください」と尋ねた。 応募者は窓が割れているのに気が付くと、反対側の壁から窓に向かって勢いよく突進し、そのまま飛び降りた。 面接官は廊下を確認したが、次の応募者はまだ来ていなかった。仕方がないので面接官は割れた窓か

          噛み合わない面接

          解決金の男

          K氏は用心深い男だ。 あらかじめ解決金を支払うことで、問題の発生を未然に防ぐようにしている。 K氏は問題の発生を防ぐためなら誰にでも解決金を支払う。敵にも味方にも、友人にも家族にも、知人にも他人にも、犬にも猫にも解決金を支払うようにしている。 そのおかげでK氏はトラブルに巻き込まれたことがない。 月曜日にチンピラから「俺とお前の間に問題が起こりそうだぜ」と言われれば解決金を渡し、火曜日に小学生から「僕とKさんの間に問題が起こりそうだよ」と言われれば解決金を渡す。 そ

          堕落したジェシカ

          ジェシカはある出来事をきっかけに堕落するようになった。 はじめは緩やかに堕落していったが、日を追うごとに指数関数的勢いで堕落するようになり、最後にはほぼ垂直に堕落するようになった。 向かいの家に住む数学のK教授はジェシカの堕落曲線から閃きを得て、ある重要な数学上の問題を証明することに成功した。

          堕落したジェシカ

          N教授の足腰

          N教授の研究室は七階にある。 その日はたまたま点検でエレベーターが使えなかったため、教授は仕方なく階段で上ることにした。 七階まであと一段というところで教授は足を滑らせ、一階まで転げ落ちた。 幸いケガはなく、教授はまた階段を上り始めた。そして七階まであと一段というところでまた足を滑らせ、また一階まで転げ落ちた。 教授はまた階段を上り、また転げ落ちた。 *** 教授が六十三回目に階段を転げ落ちたとき、ちょうど人と会う時間になった。来月の登山に向けて、体力作りのために

          中島のパンデイロ

          中島は凄まじい集中力で考えていた。 集中し過ぎていたせいで道端の虎にも気が付かなかった。 虎を踏んだことにも気が付かなかった。 虎が中島の足に咬みついたことにも気が付かなかった。 右足の膝から下が完全に食いちぎられた頃、中島は鞄からパンデイロを取り出した。そして完全に斬新なリズムでパンデイロを叩いた。 虎は中島の両足を丸々食いちぎると、満たされたのか、どこかへ行ってしまった。 中島は完全に斬新なリズムでパンデイロを叩き続けた。そしてこの完全に斬新なリズムを完成させ

          中島のパンデイロ

          柔軟な対応

          K氏はお腹がすいたので有り合わせの食材で何か作ろうと思った。 冷蔵庫を開けるとモンゴロイドが入っていたので、K氏はモンゴロイドで簡単に炒飯を作った。 出来上がるとK氏は気が変わり、モンゴロイド入り炒飯をそのままに、近所の食堂へ出掛けた。 K氏はこの食堂へ入るのは初めてだったが、「いつもの」と注文した。 しばらくすると炒飯が運ばれてきた。味に感動したK氏は一万円札で支払い、釣りを受け取らずに店を出た。 家に戻ると、先ほど作ったモンゴロイド入り炒飯が先ほどの場所に置いて

          山中の出会い

          Kはジェシカの遺体を埋めるべく、隣県の山中に車を走らせた。 何か月も車が通った気配のない山道をしばらく進んで車を降り、右肩にジェシカの遺体が入った寝袋を抱え、左手にシャベルを持って山中へ分け入った。 一時間ほど歩いたところで場所を見繕い、穴を掘って寝袋を埋めた。 Kが大きめの石に座って一服していると、背後に人の気配を感じた。 振り向くとT部長が立っていた。 右肩には何かが入った寝袋を抱え、左手にはシャベルを持っていた。 「やあ、K君。こんな所で何を?」 「部長、

          ある金曜日

          金曜日はカジュアルデーなので、私はスーツではなく食パンを着て出社することにした。 会社に着くと、カジュアルデーだというのにクソ真面目な連中がスーツを着てきていた。よく見るとカジュアルな服装は私だけだった。 閑散期であったため、午後になると私は完全にやる気を失い、やる気を失っていないように見せることにやる気を出した。 夕方、空腹になると、私は着ていた食パンを少しずつ食べた。終業の時間になる頃には、着ていた食パンはすっかりなくなってしまった。 仕方がないので私はロッカーか

          ライ麦畑で塚田得て

          私は仕事帰りにいつものライ麦畑に寄った。 その日はちょうどセールで、いろいろなものが安くなっていた。私は以前から狙っていた大きめのフライパン、耐熱性のガラスのボウル、小型の塚田を買って帰った。 それだけだ。

          ライ麦畑で塚田得て