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無限老人ホテル

出張で関西方面へ行ったときに、某中核駅の裏手にあるビジネスホテルに泊まった。

接待が長引き、チェックインは遅い時間になった。早く部屋に行って休みたかった。部屋は七階だったのでエレベーターを待ったが、なかなか下まで降りてこない。どうやら各階で止まっているようだ。こんな時間に下に降りてくる客がそんなにいるとは思えない。誰かが悪戯ですべてのボタンを押したのだろう。こんなことをするのは非常識な若者に違いない。疲労もあり、私は苛立ち始めた。

数分後にエレベーターがようやく降りてきた。扉が開くと中から人が溢れ出てきた。ぎゅうぎゅう詰めになった人間が、文字通りこぼれるようにエレベーターから降りてきた。すべて老人だった。扉寄りにいた老人が勢いよく押し出され、続いて中からどんどん老人が出てきた。確実に定員オーバーだ。最近は若者よりも老人のほうが非常識であることを私は思い出した。このような連中には何を言っても通じまい。私は全員降りるまでやり過ごすことにした。

しかし老人は後から後から湧いてきた。定員オーバーどころではない。すでに100人は降りただろう。このエレベーターのどこにそれだけ乗っていたのか。私は呆気にとられて老人の群れがエレベーターから流れ出てくるのを眺めていた。

***

扉が開いてから三十分は経っただろう。老人は途切れることなくまだエレベーターから湧き出てくる。私はエレベーターを諦め、階段で七階まで上がることにした。

最初の踊り場まで来たとき、上から老人の群れが駆け下りてきた。小学生のように一段飛ばし、二段飛ばしで下りてくる老人もいる。老人の波があまりに激しく、私はそれ以上進めなくなった。仕方なく老人の群れがいなくなるのを踊り場で待つことにした。

***

目が覚めるとすでに朝の七時を回っていた。踊り場でしゃがんだまま眠ってしまったようだ。上からはまだ続々と老人が下りてきて、進めそうにない。疲れは取れていなかったが、私は部屋へ行くのを諦め、そのまま下に戻って食堂へ行くことにした。食堂の手前でエレベーターに目をやると、まだ中から老人が溢れ出ていた。

食堂は老人で埋め尽くされていた。空いている席はなかった。立っている老人が至る所で席が空くのを虎視眈々と狙っている。私は食べ物だけ取って食堂の外で食べようと思った。しかし、バイキング形式の料理はすでに食い尽くされていた。

私は文句を言うために受付に向かった。何について文句を言えばいいのかよく分からなかったが、とにかく何か言ってやろうと思った。私が受付のスタッフに声を掛けようとしたとき、四方から老人の群れが突進してきた。私は床に倒され、老人の大群に踏みつけられた。一時間は踏まれ続けただろう。それから私は気を失った。

***

気がつくと私は知らない公園の砂場に横たわっていた。

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