山中の出会い
Kはジェシカの遺体を埋めるべく、隣県の山中に車を走らせた。
何か月も車が通った気配のない山道をしばらく進んで車を降り、右肩にジェシカの遺体が入った寝袋を抱え、左手にシャベルを持って山中へ分け入った。
一時間ほど歩いたところで場所を見繕い、穴を掘って寝袋を埋めた。
Kが大きめの石に座って一服していると、背後に人の気配を感じた。
振り向くとT部長が立っていた。
右肩には何かが入った寝袋を抱え、左手にはシャベルを持っていた。
「やあ、K君。こんな所で何を?」
「部長、散歩をしていたら道に迷ってしまいまして」
「そうか。向こうへ行けば市道に出られるよ」
「そうですか、助かりました。ところで部長はこんな所で何を?」
「いや何、急に寝袋を埋めたくなってね」
「そうでしたか。今日は絶好の天気ですものね」
「ああ」
「では私はこれで」
「じゃあまた会社でな」
「はい。失礼します」
Kは車に戻ってエンジンをかけると、ショパンの「蝶々」をリピート再生した。そして延々と蝶々を聞きながら自宅へ向かった。
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