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ワクチン接種会場

私はワクチン接種会場に来ていた。

何のワクチンかは分からない。チラシを見て記念品に釣られて来ただけだ。

来場者は老人が多いようだ。むしろ私以外は皆老人と言ってもよい。

私は列に並んだ。前方を見ると、注射を打たれた老人が次々に死んでいるようだ。

私は記念品のことで頭がいっぱいだったので特に気にしなかった。

私の番まで後二人というところで看護師が話し掛けてきた。

「すみませんが、遺体を運ぶのを手伝っていただけないでしょうか。死者の数が予想よりも多くなってしまいまして」

看護師が好みのタイプだったので、私は「ええ、もちろん」と即答した。

それから二時間ほど私は老人の遺体を運び続けた。

どこへ運んだのかはよく覚えていない。言われるがままに、会場の裏手にある研究所のようなところへ運んだような気がする。

すべての遺体を運び終えて接種会場に戻ると、老人は誰もいなくなっていた。

責任者らしき人物が来て、「本日分のワクチンはなくなってしまいました。よろしければ記念品だけでもお持ちください」と申し訳なさそうに言った。

記念品が欲しかっただけなので何の問題もなかった。私は記念品のお礼を言って出口に向かった。

帰り際に先ほどの好みの看護師を探してみたが、すでに帰ったようだった。

***

家に着くと、私は記念品をどこかに忘れてきたことに気がついた。途中でお腹を下して7箇所もトイレに寄ったので、そのうちのどれかだろう。

探すのも面倒なので記念品は諦めることにした。

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