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短いはなし

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2022年8月の記事一覧

記憶

記憶

母親のおなかの中にいた時の記憶があると、まだ少ししか知らない言葉を、ありったけ並べて幼い子が言った。
子供にありがちな妄想なのだろうと思ったけれど、そういえば…

俺は眠っていた。
ドクドクと全身に響いてくるリズム、布の擦れる音を感じながら。
ぷかぷかと浮遊しながら手を伸ばしてみると、まあるくやわらかな壁に触れた。
温かな液体に包まれて、それ以外の世界があることなど知りはしなかった。
何がしあわせ

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B型夫

B型夫

何が嫌いって、出会った頃に
「何型?」
といきなり血液型を聞いてくる女子。
私は占いだとかは全く信じないし、だいたい全ての人間が血液型ごときでたった4種類のどこかの枠にはめこまれること自体どうかしてると思う。

「由香ちゃんてさ、O型じゃない?」
「そう」
「やっぱり〜」
なぜだかそんな占い大好き女子には血液型を100%当てられる。
「ぽい、ぽい、そんな感じィ〜」
ガサツで大雑把。いわゆる世間で言

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ゆらゆらゆれる

ゆらゆらゆれる

むかしむかし、どっかの国のちょっとしたお金持ちの間で庭にブルーベリーを植えるのがブームになりました。
木々がしなるほどにどっさりと実がなった様は、いかにもお金持ちが好きそうな豊かな風景でした。
おいしいジャムになったり、時には薬としても使われるブルーベリーの木が庭にある家は滅ぶことなく永遠に続いていくと考えられていました。
お金持ちたちは競い合ってブルーベリーの木を庭にどんどん植えていきました。

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普通

普通

「すいません。そこからは立ち入り禁止なんですけど」

初めて行った街の駅に降り立ち、歩き始めると、街のど真ん中に一軒だけ違和感のある古いビルが建っていた。
レトロな建築物に魅力を感じる私は、吸い寄せられるようにしてそのビルへ足を踏み入れた。
茶色く光った木製のドアや、ひんやりとした石の床を見ながら奥へ進んいくと声をかけられた。

「すいません。そこからは立ち入り禁止なんですけど…」

床から視線を

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