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2021年11月の記事一覧

ズンドコポン

ズンドコポン

とにかく私は地の果てまで行きたい気持ちで行き先も見ないで電車に乗った。

小学生の時に私は野球チームに入った。
特に興味があったわけではないけれど、いつも一緒に鬼ごっこや缶けりをして遊んでいた近所の男子たちがこぞってチームに入ってしまったので遊びの延長のつもりで私も参加した。
遊び相手がいつも男子ばかりだったので気が付けば女子にしては肩が強くなっていたらしく、おだてられて結局私は中学、高校、大学と

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幹夫と私たち

幹夫と私たち

祖父の実家はちょっとした陶器工場で、祖母はそこの長男である祖父と結婚をした。
のほほんとした祖父とは違って姑は何かと作法にうるさい人だったらしい。
玄関に飾る花のこと、料理の味付け、お客さんに出すお茶の淹れ方。何ひとつしたことのないままうっかり長男の嫁になってしまった祖母は、すべての動作をいちいち注意された。
同じ敷地内に工場と自宅があり、長男の嫁として姑とともにその両方の仕事をしなければいけない

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写真

写真

捨ててもよかったのだけれど、私の荷物に紛れ込んでいた“なりたてホカホカの元夫”の写真を送り返すため、私は近くの郵便ポストへと歩いていた。

10代の終わりに出会って友達期間を経て恋人になり、夫婦になった。
友達の延長線上で結構仲良く楽しく過ごしていて何か特別な問題が起きた訳ではないけれど、やっぱり友達でいいやと気付いてしまって3日前に離婚をしたのだった。至って円満離婚である。少なくとも私の中では。

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対象者

対象者

依頼はいつも密かに暗号で送られてくる。

私たちHearts(これも仮の名)のメンバーは、けっして依頼人と顔を合わすことはない。
もし街ですれ違ったとしてもお互いを認識することはできない。私たちのような仕事があることさえも地球規模の秘密事項なのだ。
Hearts(仮の名)のメンバーは世界中に存在し、言語を越えた特殊なコミュニケーション法で人に知られることなく依頼を遂行していく。
ただし成功率が10

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人生ガチャ

人生ガチャ

ふわふわと舞い落ちる雪、見上げる空をピンクに染める桜、記憶をくすぐる金木犀。
繰り返される風景を幾度見てきただろうか。

今の世の中には親ガチャなる言葉があるらしい。
コインを入れてガチャガチャっとツマミを回すとカプセルに何かが入って転がり落ちてくるアレ。
それは望むものが落ちてくるとも限らない。
それと同じように親は自分では選ぶことができないから親ガチャというのだそうだ。
夢か現実かわからないよ

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