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あったかいのに悲しい、そんな夢の話




起きたら病院のベッドだった。
真っ白な天井と壁、冷たいシーツに横になっていた。
看護婦さんらしき人がやってきて「体調はどうですか?」なんて穏やかに尋ねてくるから、一体どうしたことかと不思議に思った。
考えても状況が全く読み込めない。
朝からずっと体調が悪かったから横になって休んでいた。
いつの間にか泥のように深いところに沈んでいくような眠りについていたのだろう。





夢だと気づいてからはその世界をみてまわることにした。
知っている顔の人は誰も登場してこないから心細いかと思いきや、案外ちっとも怖くなかった。
初めてみる高齢の方や小さな子どもたち、妊婦さんや車椅子に座っている爽やかな男性も、みんな優しい空気を纏っていて素敵な笑顔で過ごしていた。
病気や障害を持っていて辛そうなのかと思っていたのに、なんともないように元気で穏やかだった。
話しかけてくれる人はみんなおしゃべり好きで人懐っこい性格だった。
何を話してくれたかは忘れてしまったけれども、ものすごく心があったかくなる話や、生まれてくる赤ちゃんの話、人生の思い出エピソード、やりたいことや将来の夢の話などを長いこと聞いてまわっていた。
ひとつひとつの細かい内容は忘れてしまったのに、なぜか胸が苦しくなるくらいの優しさと夢と希望に満ち溢れた話ばかりだったような気がする。
なんだろうな…不安とか悲しみを払拭してくれるような、背中をそっと後押ししてくれるような感じがした。




外に出れる時間が決まっていた。
ある子どもから秘密の花園を教えてもらった。
病院の裏手にあるたくさんの木苺の株をかき分けていくと、子どもがひとり入れる空間がぽっかりと存在していた。
その子は私に手招きをして、どんどん進んでいった。
まるで不思議の国のアリスが木のふもとにある穴から落ちていくように姿が見えなくなってしまった。
ひとり残されても寂しいから私もついて行くことにした。




ずいぶん小さい木苺のトンネルをハイハイの姿勢で進むこと体感で約1分45秒くらい。
目の前にやっと眩しい光が射してきた。
あんまり眩しいから目が慣れるまで時間がかかった。
せせらぎの静かでゆったりとした音とともに、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
暑くも寒くもないとても快適な温度で、優しい風がときおり頬を優しく撫でていた。
せせらぎの両端にはたっぷりと豊かな紫陽花が咲き誇っていた。
シャンデリアのような見た目がなんとも華やかでいてかつ、涼やかな花も咲いていた。
見たことがある花なのに、名前が思い出せなかった。
「お姉ちゃん、それは愛の花だよ。」ってあの子は教えてくれた。




みんな知らない顔のはずなのに、どこかで会っていそうな、もしかしたらこれから出会う人のような気がした。
知らない人のはずなのに、起きてからもあの人たちのことが頭から離れなかった。
気づいたら涙を流していた。
だってまだふわふわした感覚が残っている。
たぶん、私が見た人たちはこの世から旅立った人たちだってなんとなく思った。
現実的ではないのは分かっているし、馬鹿にされたらそれまでだけど、確かにあの人たちは存在していたと思う。
生きるとか死ぬとか難しいことは私には書けないけれども、いつまでも穏やかに愛おしいと想える何かを持っていたいって感じた。
この気持ちを忘れたくないから書いておくね。
愛の花って教えてくれてありがとうね。
花の名前ちゃんと思い出したよ、アガパンサス。
これはあったかいのにどこか切なく悲しい夢の話。



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