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2019年3月の記事一覧

「流行りの歌」解説

この作品は、キャプロア出版刊週刊キャプロア出版第17号「シンガーソングライター」編に掲載されたものを手直ししました。

最近では、パソコンのソフトなどを使えば、楽器が弾けなくても、楽譜も読めなくても作曲ができるようになっているそうです。
もちろん楽器が弾けて、それをいかした素晴らしい曲はこれからもできていくでしょう。
楽器が弾けなくても、そして楽器や既存の文脈からはみ出した作品も、これからはどん

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流行りの歌

ため息をつき僕はコーヒーカップを口に運んだ。この店もBGMはこの曲か。この女性歌手の自作曲は、今大ヒットしている。街中どこにいても聞こえてくるような気がする。街がこの曲に侵食されてしまっているようだ。
もっともそんな風に考えるの少数派なのかもしれない。そうでなければこの曲がこんなに流行ってはいないだろう。
作曲家の僕だから、この曲が神がかっていることは分かる。
今までにない曲だった。聞くと体が浮遊

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「カエルのいる森」解説

この作品はキャプロア出版刊週刊キャプロア出版第16号「家」編収録のために書いた作品です。

前回noteに投稿した作品では、「家」というテーマを「地球」というモチーフで書きました。
その作品をボツにして、その次に思いついたのが、この作品。「家」とは、帰る場所であり、家族のつながりであるという解釈です。

さて、枕が変わると眠れないなどの話をよく聞きますが、ぼくもそのクチで、昔から旅先や、ス

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カエルのいる森

背中から声を掛けられ振り返った。
うちの家の裏にある庭の先は、森とつながっている。声はそこから聞こえたようだ。僕は土遊びの手を止めた。目をこらして見たが森にも庭にも何も見えない。あきらめて家に入ろうとした。
「ここだよ」
はっきり聞こえた。声を探して目を動かす。庭の先でアマガエルが跳んだのが目の端に見えた。まさか。
僕はアマガエルを見た。カエルはこっちに跳びはねて近づいてきた。
「そうさ、やっと気

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「マイホーム」解説

この作品は、週刊キャプロア出版の「家」編用に書いた習作です。
結局、この作品はボツにして、そちらの方へは別の作品を掲載いただきました。

「家」というテーマをいただいたときにすぐにでてきたモチーフが「家=地球」でした。
設定が理解しにくいため、1600字にまとめるため説明を多用していることもあり、お話自体は嫌いではないものの、完成度としては納得していません。
どうしてもSFということで、今と違う世

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マイホーム

裁判官が槌で机を2度叩いた。
「被告を、流刑に処す」
法廷がざわめいた。被告、すなわち私の目が見開いているのが自分でも分かった。頭を『まさか』の文字が回っている。声が出ない。流刑が制度化され、大金を掛けて設備を整えたことは知っていた。まだ実際に刑を執行されたものは居ない。まさか自分がそうなるとは。
私はひざから崩れた。両脇を抱えられるようにして法廷から出た。

私がやったのは政府に極秘に頼まれ

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「やさしい嘘」解説

「ネカマ」などの言葉があるように、ネット上での、なりすましや詐称はよくあるようです。
インターネットが当たり前になり、ぼく自身SNSを利用していたりしますし、ツイッターなどで、だれかの言葉を目にするのは日課のようになっています。
遠方の方や、制約のある中で会うことが難しい方なら、会ったこともないのにつながりを持つことも今なら当たり前なのかもしれません。
それらの方の言葉や、ネット上に拡散されている

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やさしい嘘

視界が歪んでいる。わたしは水の中から天井を見ていた。手足を折り曲げ、無理矢理全身を浸したバスタブで目を開けている。離れて暮らす妻は、今頃なにをしているだろう。朝ご飯でも食べているのだろうか。鼻から空気が漏れ出した。自分の心臓の鼓動だけが聞こえてくる。口が空気を探し勝手に開いた。大きな泡が出るとともに口に水が流れ込む。わたしはバスタブから上半身を出し肩で息をした。全身で荒い呼吸を感じる。こうすること

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「スポットライト」解説

この作品は、キャプロア出版刊週刊キャプロア出版第12号「夢」編に掲載されました。

このときのリーダーは、テーマが「夢」ということで、もっとポジティブな作品が出てくると想像していたのかもしれません。
その意味では、申し訳なく思っています。

この作品を書いた当時、ハマっていたミュージックビデオがありました。その作品の世界観を描いてみたくて書いた作品でもあります。

SFやファンタジーな

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スポットライト(1600字)

学園祭の看板を横目で見ながら車で校門前を通り過ぎた。もう終了する時間のせいか、夕焼けが残る景色には人の姿はない。敷地のフェンスを越え、1本目の角を曲がって車を停める。娘と待ち合わせだった。
本当なら娘は学園祭終了後に後夜祭の予定だったのだが、娘から後夜祭には出ずに帰るからと妻に連絡があった。何かあったな。わたしは車で迎えに行くと娘に伝えた。

車の時計を確認する。娘との待ち合わせまではまだ10分

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「ひきつれ」解説

この作品は、キャプロア出版刊週刊キャプロア出版第11号「喪失と再生」編に収録されました。

この作品に出て来る女性には、モデルがいます。小中学校時代の同級生で、同じクラスになったことはないので、口も聞いたことはないのですが、彼女のお父さんが開いていた柔道場に、小学生時分に通っていたこともあり存在は知っていました。
伝聞ですが、彼女も実際に小さい頃に大火傷を負ったそうです。
客観的に見ても、体格

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「ひきつれ」(1600字)

視界が燃えていた。夢なのに私は炎の熱さを感じていた。声を出してはいけない気がした。更に炎が近づく。我慢が限界を超え私は泣き叫んだ。
自分の声で目が覚めた。パジャマが汗で濡れている。胸の谷間までグッショリになった。またか。もう何回同じ夢を見ただろう。
のどが渇いていた。ベッドから降り部屋に備え付けのキッチンの蛇口をひねる。コップに水を汲み、立ったまま飲み干した。
火事にあい両親を失ったのは本当のこと

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