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マンガミュージアム考察

2014年3月刊行の「まんがミュージアムへ行こう」(岩波ジュニア新書)。「マンガの仕組みを知る」「絵を楽しむ」「作者を知る」――など6つのジャンルに分けて、国内の主要施設18か所を紹介。さらに海外の6施設を取り上げている。自分はこのうち、8施設に足を運んでいる。「町づくり」への関心からや、それぞれの取り組みを見たくて旅したのだが、「見比べて得るものがある」ので、境港で宿を運営するうえで多少は役に立っている。卒論の研究や、学校で漫画文化を学んでいる人。マンガ関連施設への関心が高い人などにご宿泊いただくと、資料類(マンガ関連施設のパンフレット類が1カ所に固めてある)を見てくださる人もいる。

同書では、「水木しげる記念館」は「マンガの世界に入る」というジャンルで紹介されている。
水木先生や作品の世界観の説明にある程度行数を割いたうえで「水木しげるロードを訪れる人の10%~20%品入館者がいない」という事実も記しており、展示空間などの説明も客観的で、無駄に褒める感じや的外れさはない。ただし《境港駅から水木しげる記念館へ続く道は、神社の参道のよう》《町の景観をミュージアムの空間に転化してしまう》などと、まるで「記念館のおかげで水木しげるロードが発展した」と取られかねないことを平然と述べるなど、「水木しげるロード」誕生の経緯は分かっていないのは確かだ。とは言え、先入観なく見たままの感想を述べている感じなので、やや褒めすぎのきらいはあるが誇張された感じはない。

現在、日本には70近い「マンガ関連施設」があると記されている。「人物(漫画家)系」や「町づくり系」の施設へは足を運んでいるが、「アニメ系」「画廊系」「図書館系」と、あと「子ども向けの施設」は未踏。「行ってみたい施設」はたくさんあるので、どこかで時間をつくり、視察しておきたい。

なお、規模が大きいのに紹介されていない施設として「新潟市マンガ・アニメ情報館」と宮城県石巻市の「石ノ森萬画館」があるが、前者は2013年春オープン、後者は東日本大震災で1年以上も休館したため、2014年刊行である同書の取材時期には、オープンしていなかった。

自分が訪ねて特によかったと思う施設は、ナンバー1は何と言っても「石ノ森萬画館」。
スタッフが「サイボーグ009」の「003」に扮した格好で出迎えるのが好感度が高いし、回廊型で順路が明確。からくり時計や投影などの細かい工夫もあり、“遊べる要素”が高いので作品を知らない子どもでも楽しめる。企画展も年数回あるし、既に10回近く訪ねているが、とにかく「飽きない」。石巻駅からのマンガロードの活況にもう少し繋がれば、言うことなし。また、同館は東日本大震災で1年半以上も休館せざるを得なかったが、再開後のほうが、より観光客の立場に立った運営を感じる。

秋田の「増田町まんが美術館」も素晴らしい。
総合的なマンガ関連の美術館としては、日本初の施設。ここも通路が回廊で、しかも吹き抜け。広々とした開放感がいい。「釣りキチ三平」で知られる矢口高雄氏が同町出身で展示の中心となっているが、多くの著名作家の原画が見られ、お得感が高い。

町づくりと一体になっているのは、東京都青梅市の「青梅赤塚不二夫会館」。
青梅駅から延びる道路を「シネマチックロード」として昭和30~40年代の映画看板を掲げ、「昭和レトロ博物館」「昭和幻燈館」と3館一体として売り出している。3館すべてで施設の充実度が高いうえ、共通券も割安。年間の観光客数は「30~40万人程度」らしいが、正直なところ、もっと評価されてもよい町づくりだと思う。

自分の中では、これがベスト3だ。

新潟の「マンガ・アニメ情報館」&「マンガの家」も悪くないし、「京都国際漫画ミュージアム」も充実度は高い。故・石ノ森章太郎氏では、登米の「石ノ森章太郎ふるさと館」もある。宮城県塩釜市の「長井勝一漫画美術館」も「水木ファン」なら行っておきたい施設だし、「青山剛昌ふるさと館」も充実度は高い。
「水木しげる記念館」と「水木しげるロ―ド」としても、成功例の先駆ということに胡坐をかかず、危機感をもって、これらの施設の「良いところ」を見習ってほしいと願う。

なお、この書の中に、次のような言葉があった。
《来訪者数や経済効果だけでまちづくりを評価し、それを追い求める日本社会の一般的な風潮も、問題がないわけではない。》
これは、「問題がないわけではない」どころか「大いに問題あり」だと思う。
自分は「数字の誇張、誇大解釈」は、悪影響が非常に大きいと思っている。「来訪者数」と「経済効果」も結び付かないし、もっと「具体的」な「実態」を「検証」しなければ、本質的な発展はない。

また、境港の町づくりは「成功例」としてとらえられているが、「成功」と言えるのは贔屓目に見て2010年ごろまで(個人的には2006年くらいまでだと思っている)。さらには「水木しげる記念館」は、成功要因への効力は、ほんの僅か。年間の観光客数が60万人を超えてから誕生した同館は「にぎわいの継続」に一役買ったとはいえるが、全体的な存在意義としては小さな存在でしかない。
今、水木しげるロードの店や施設に従事する人でさえ、町づくりの経緯を知らない人が大半を占める。だから、何度も述べてきたように「リニューアル工事で『原点回帰』」できればと願っている。


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