銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(10) 大きなネズミは小さなネズミ
レイターはアーサーの銃をするりと抜き取っていた。
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「おい、何をする気だ?」
慌てて取り返そうと手を伸ばすと、レイターは銃のグリップをぶつけて抵抗してきた。
違う。レイターの奴、僕の手のひらに銃を押し付けて掌紋個人認証を解除したのか。何てことだ、銃が使える状態になっている。
「アーサー、下を見てみな、奴ら集まってきやがったぜ」
宇宙海賊とおぼしき武装した中型船が停泊していた。大気が環境制御されているようだ。甲板に大型銃を抱えた海賊たちが宇宙服を着用せずに出てきた。レイターと揉めている場合ではない。
僕たちは金目の物は持っていない。海賊らもわかっているだろう。狙いはこの連邦軍の船か。性能の高い中古船は辺境地域で高く売れる。
僕たちを殺して船を奪う気だ。
突然、レイターが窓を開けて発砲した。
ぶれのない美しいフォーム。
海賊の額から血が噴き出した。いきなり急所を撃ち抜いた。巨体がバタリと倒れる。即死だ。僕は思わず叫んだ。
「殺すな!」
「あん?」
大きな目をさらに大きくしてレイターは僕を見た。
「過剰防衛を取られる」
「あんた、甘いな」
突然の銃撃に、海賊たちが応戦してきた。大型銃から飛んでくる白いレーザー弾を左右の噴射でよける。
続けてレイターは銃を操った。出力を下げて海賊たちの手元を撃つ。次々と大型銃を使えないようにしていく。
百発百中だ。彼は揺れながら降下する船から標的を狙うという難易度の高い状態で、的をひとつもはずさなかった。
訓練の時に感じた違和感を思い出した。基本のなっていない構え。そうだ、彼はわざと的をはずしていたのだ。
甲板にいた海賊たちは中型船内へと逃げ込んだ。大男の死体だけが倒れている。
人工重力場からは抜けられなかった。海賊船から離れた場所に不時着した。救難信号をアレクサンドリア号に送る。
「ったく重力場に捕まるなんて、バカじゃねぇの。だから俺に操縦させろっつったのに」
他人からバカと呼ばれたのは初めてだ。
「突然の重力場に捕らえられたんだ。不可抗力だ」
「逆噴射のタイミングが遅せぇんだよ」
彼のいう通り、一瞬の判断が遅れたのは確かだった。
「銃を返してくれ」
「ほれ。やっぱ35は重いな。RP20だったら使い慣れてんだけど」
彼は素直に僕に銃を渡した。その時僕は気づいた。彼は小さな体に似合わず指が長いことに。
「君は本当は銃を扱えるんだな」
レイターは見ればわかるだろうという顔をして答えた。
「ダグんとこにいたら銃ぐらい撃てねぇと」
マフィアにとっては当たり前のことなのかも知れないが僕は質問を続けた。
「これまでも人に向けて撃ったことがあるのか?」
僕は実戦で人を撃ったことはない。
「そりゃそうさ、他に何を撃つんだよ」
迷いの無い答えだった。確かに銃は人を殺すために存在している。そして、レイターは殺るか殺られるか、という第三次裏社会抗争を潜り抜けてきた。
「どうしてそれを隠しているんだ?」
「あんた、ほんとに天才なのか? 銃の扱えるガキなんて怪しまれるに決まってるだろが」
彼の言うことはもっともだった。
「徐々にうまくなったように見せかけるつもりだから、あんたも黙って協力してくれよ。二人の約束だぜ」
そう言って彼はウインクした。
約束と言うのは、一方的に通告するものではない。僕は合意していない。
救助のためモリノ副長が指揮する中型船がまもなく到着するという連絡が入った。僕たちは船の外へ出てレッカーで引いてもらうための準備を始めた。
その時だった。 (11)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」