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銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(1) 大きなネズミは小さなネズミ

銀河フェニックス物語の一番初めのストーリーがここから始まります。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>のマガジン

 戦艦アレクサンドリア号に乗って一週間。
 僕は地球を出航してからずっと違和感を感じていた。

少年戦闘服後ろ目

 重量制限をオーバーしながら航行しているというイメージ。ただ、その原因がわからない。質量計も誤差の範囲だ。でも何かが違う。
「艦内に異常を感じるのですが」
 僕は艦長のアレック・リーバ大佐に進言した。

「アーサー、いや、トライムス少尉。お前にとっては士官学校を出て初めての任務、しかも長距離航海だからな。神経質になるのも無理はないが大丈夫だ。順調に進んでいる」
 と、相手にされなかった。

若アレック前目にやり逆. png

 アレック大佐は昔から大雑把だ。

 昼食の弁当を一口食べた時だった。
「トライムス少尉、艦橋から連絡が入っています」
 呼び出された僕は、弁当パックをその場に置いたまま食堂の横にある通信ブースへ入った。航行データの扱いについての相談だった。航海士に確認をして話は終わり、僕は食堂へ戻った。隊員の姿はまばらになっていた。

 僕が食べていた席から弁当が無くなっていた。予備の弁当は十分にあり、僕は新たな弁当を取り出した。問題というほどのことではない。誰かが片づけて捨てたと考えるのが普通だが、本当にそうだろうか。気になるが「僕の弁当を捨てませんでしたか?」と聞いて歩くほど暇ではない。

 その翌日、おろしたてのタオルが湿っていた。
 誰かが間違って使ったと考えるのが普通だが、本当にそうだろうか。ひじょうに些細なこと。みんなが気にもしないで見落としているようなこと。そこに何かしらの意味を感じる。

 アレック艦長が言う通り、初航海で僕が神経質になっているのだろうか。

「つまみ食いした奴、誰だ!」

ザブリート@叫ぶ2逆


 食堂で料理長のザブリートさんが怒っていた。
「おいザブ、誰もつまみ食いなんてしてないよ」
 隊員たちは笑っている。
「いや、ポテトサラダが減ってる。俺が食材チェックに行ってる間に誰かが食ったんだ」
「誰も厨房になんて入ってないぞ」
「今日だけじゃない、この間も誰かがつまみ食いしやがったんだ。ったく俺の目はごまかせん」
 そう言ってザブさんはジロリと見渡した。

 僕の頭に、大きなネズミという単語が頭に浮かんだ。

 僕はザブリートさんにつまみ食いの話を教えてほしいと頼んだ。
 ザブリートさんは、夕飯の準備中、調理のメドが経った段階で翌日の食材のチェックに食糧庫へ出かけるのが日課になっていた。厨房へ戻ってくると、調理済みのポテトサラダが減っていたという。しかも、今日だけではない。

 僕は声をひそめてザブリートさんに聞いてみた。
ふねに大きなネズミが隠れているとは思いませんか?」

ねずみ

「大きなネズミって、それは『密航者』ってことか?」
 僕はうなずいた。
「そりゃ無理だ。お前の方が詳しいだろ。このふねのセキュリティについては」
 もちろんわかっている、密航など不可能だということは。ふねが出航してから二週間。そんなに気づかれずに隠れていられるはずがない。

 だが、僕は確かめたかった。
 ザブリートさんは心よく承知してくれた。
「いずれにしてもネズミは退治しなくちゃならんからな」
 厨房に隠しカメラを仕掛け、そして、ザブリートさんからの報告を待った。     (2)へ続く

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