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銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(9) 大きなネズミは小さなネズミ

アーサーは試しにレイターの前で「緋の回状」とつぶやいてみた。
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「大きなネズミは小さなネズミ」まとめ読み版
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「なっ!」
 思ったとおりだ。レイターはビクッと顔色を変えて固まった。

12レイター小@後ろ目やや驚き

 わかりやす過ぎる。
「一体君は何をしたんだい?」
「何をって、な、何がだよ」
「どうして君に十億リルの懸賞金がかけられているんだ」
 レイターが警戒した様子で僕の目を見た。
「俺は何にもやってねぇ。ただ、家出しただけだ」
 家出?

「君はグレゴリーファミリーの一員なのか」
「違う」
「どうもよくわからないな。今、君は家出をしたと言った。それはマフィアから足抜けしたという意味なのか?」
 と自分で言いながら違和感を感じていた。こんな子どもの足抜けに高額な懸賞金が動くわけがない。

「俺はダグん家に居候してたんだ」
「君は何か組織の秘密を知っているということかい?」
「秘密? ……ああ、それで俺、命狙われてんのかなぁ。でも、金庫の暗証番号なんて変えりゃすむだろ」
 彼がグレゴリーファミリーと深くかかわっていることはわかった。だが、十億リルはいくら何でも不自然だ。

 レイターをこのまま地球に返す訳にはいかない。

地球

 生きていることがわかったら、マフィアの餌食になる。だが、彼を乗せておくことはこのふねのリスクにもなる。

 どうやら僕は厄介な地雷を踏んでしまったようだ。

「頼む、誰にも言わねぇでくれ。もう掃除当番さぼらねぇから」
 レイターが手を合わせて必死に頭を下げる。
 リスク情報を上官に報告しないというのはありえない。だが、この情報を知ったらアレック艦長はどう判断するだろうか。直感で動くあの人の行動を読むのは難しい。

 今、レイターは死亡扱いされ、『緋の回状』も効力を失っている。マフィアがこのふねを狙ってくる可能性はほとんどない。ほとぼりが冷めるまで、動かないのが賢明だ。
「僕は何も聞かなかったことにする」


 たまたまその日、一緒にパトロールへでかけるはずだった僕の相手が体調を崩した。
 アレック艦長は思いつきで僕に指示をした。
「トライムス少尉、レイターをパトロールに連れてってやれ」

若アレック横顔前目にやり逆

 レイターが常に機会があれば船に乗りたいと艦長にアピールを続けていたからだ。
 やりたいことを口にすれば実現する、というのはどうやら本当らしい。レイターの粘り勝ちだ。
「うわぁい宇宙船だ」
 大はしゃぎするレイターを僕は冷ややかに見た。

 無人小惑星帯の見回り。ゲリラや犯罪組織が拠点を作らないように定期巡回している。
 僕が小型船の操縦棹を握り、彼は普段着のTシャツで隣の助手席に座った。
「なあなあ、俺にも操縦させてくれよ。俺はあんたよりうまいぜ。安心して任せろよ」
 レイターがしつこくてイライラする。大人に対する態度とはまるで違う。

 僕はシミュレーター訓練を見て疑問に思っていたことを聞いてみた。
「君は本物の船を操縦したことあるのか?」

惑星ガガーブアーサー逆

「ああ、ダグを乗せてよく出かけたぜ」
 やはりそうか。あの操縦感覚はゲームセンターで身に着けたものじゃなかった。
「君は『裏社会の帝王』の操縦士を務めていたのかい?」
「ダグのお抱えパイロットにちょくちょく代わってもらってたんだ。だからさあ、なあ、ちょっとでいいんだよ、ちょっとで。操縦桿を握らせてくれよぉ」
 マフィアにとって無免許操縦は問題にならないのだろう。
 シュミレーターを操る様子からは、かなりの技術があるように見えた。確認してみたいという興味はあるがここは公道だ。

「無免許の人間に操縦させるわけにはいかない」
「ったく、坊ちゃんのくせにケチな野郎だぜ」
 とレイターは舌打ちした。
 ケチな野郎とは、こういう時に使う言葉なのだろうか。自分のことを指されているとは思えないのに腹は立った。

 小惑星帯を抜け、帰ろうとした時だった。

 PPPPPPP…
 突然、警報音が鳴った。

 突然、小惑星の重力場に捕らえられた。
「人工重力か」
「こいつは宇宙海賊の手口だぜ」
 気が付くとレイターは僕の腰につけたホルスターから銃を抜き取っていた。     (10)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」