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銀河フェニックス物語<少年編> 第一話(3) 大きなネズミは小さなネズミ

アーサーがバルダン軍曹と追っていた密航者の反応が熱センサーから突然消えた。
銀河フェニックス物語 総目次
「大きなネズミは小さなネズミ」まとめ読み版 (1)(2
<少年編>のマガジン

「熱センサーに反応がありません」
「死んだんじゃないだろうな」
 仮に死んだとしてもそんな簡単に体温が消えるはずがない。
「あっ!」
 僕は思わず叫んだ。

「アーサー、どうした?」
 通信機を通して艦長が聞く。
「ネズミの居場所の下にある予備倉庫には宇宙服があります。奴が着装したら熱探査できなくなります」

横顔2前目きり

 果たして僕の推理は当たっていた。

 天井パネルがはがされ、予備倉庫に保管されていた宇宙服が一着無くなっている。
 だが、そんなに遠くには行っていないはずだ。落ち着いてネズミの逃走パターンを分析する。

 ダストシュート、エネルギー配線、奴は艦内の裏側を走り回っている。狭い場所が得意だ。だが、今は宇宙服とヘルメットをつけている。狭すぎる場所には入れないはずだ。

 アレクサンドリア号の設計図を思い出す。
 僕は一度見たものは忘れない。艦内の配管の径とこの場所からの距離で判断する。
 奴が今いるのは排煙ダクトだ。

 ダクト内へ入るのに一番近いのはC1ポイント。だが、C1から入っては追いつけない。C3で待ちかまえるか。

 僕は走り出した。
「おい、トライムス少尉、どこへ行くんだ?」

一に訓練のバルダンやや口大

 バルダン軍曹の声が背中に聞こえる。
「後ほど指示します。通路で待機を願います」

 C3ポイントから排煙ダクトへ入る。ここは通路の天井裏だ。
 随分と狭い、匍匐ほふく前進するしかない。日頃の訓練がこんなところで役立つとは。

 先の方で陰が動くのが見えた。宇宙服を着たネズミだ。

ねずみ

 奴は僕に気づいたようだ。
 ネズミは後ろへ下がるしかない。こちらの方が圧倒的に有利だ。

 奴はC2ポイントから表に出ようとしている。逃がすものか。
「バルダン軍曹、C2ポイントへ向かってください」

 C2の天井パネルを開き、ネズミが通路へと飛び降りた。

 僕も後を追う。僕の背後からバルダン軍曹が駆けてくる足音がした。
 ネズミの姿をとらえる。リゲル星人にしても小さい。宇宙服のサイズがあっていないのに足が速い。すばしっこさはまさにネズミだ。

 迷いのない走り。奴は艦内を熟知している。次は、どこへ隠れるつもりだ。逃げられてたまるか。

 艦内では簡単に発砲できない。

 ええい。僕は腰につけていたレーザー軍刀を鞘を抜かずに投げつけた。
 ネズミの足にうまくあたりネズミが転がる。

 捕まえようとした僕にネズミは反撃してきた。身軽に身体を起こし鋭い蹴りを繰り出す。無駄のない動き。場慣れしている。
 だが、僕も士官学校の戦闘格闘技で負けたことはない。リーチの違いは圧倒的に僕に有利だ。

 僕はネズミのみぞおちに、おもいっきり蹴りを入れた。

 ネズミの体が吹っ飛び壁にぶつかる。倒れたところを到着したバルダン軍曹が後ろ手にして抑え込む。

 軍曹はプロだ。ピクリとも動けなくなったネズミから僕がヘルメットを脱がせた。
「ち、ちくしょう!」
 叫ぶネズミの顔を見て僕は驚いた。

「艦長、ネズミを捕まえました。大きなネズミは小さなネズミでした」
「アーサー、報告の意味がわからんぞ」

 艦長室の椅子にネズミは手錠で縛られていた。
「確かに大きなネズミにしては小さいな」

 ネズミは子どもだった。金髪に青い瞳の男子。僕より年下の十歳ぐらいだろうか。着ている白いTシャツは所々破れている。

 艦長室にはアレック艦長のほかにモリノ副長がいた。僕と一緒にネズミを連行したバルダン軍曹は奴が変な動きをしないように銃を突きつけた。

「よく二週間も隠れていたな。お前、名前は?」
 アレック艦長はネズミのあごを掴んでたずねた。
「レイター・フェニックス」

アイス少年Tシャツ前目きり逆

 声変わりしていない、高い声だった。怯えた様子はない。

 名前と顔認識システムで個人認証の簡易検索をする。
『該当者なし』と出た。
「偽名か」
「違う」    (4)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」