銀河フェニックス物語<出会い編> 第二十八話(2) 放蕩息子と孝行息子
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・第二十八話(1)
・第二十八話のまとめ読み版
「わたしは、そんなに時間がかかるようには、思わないんだけれどな」
「チャムール、何が言いたいの?」
「レイターって、操縦に関しては天才なのに、真面目で努力家でストイックでしょ、ティリーの好みなんじゃない?」
わたしはすかさず反論した。
「真面目で努力家、というのはわたしの憧れ『無敗の貴公子』と元カレの話です。レイターとは、全然っ違うから」
チャムールは、無理矢理わたしの好みとレイターをくっつけようとしている。
けれど、否定してから気がついた。
確かに、操縦に限れば、レイターのストイックさはすごい。
チャムールがわたしの顔をじっと見て言った。
「実は、ティリーにお願いがあるの」
* *
チャムールは、月の御屋敷でアーサーとかわした会話を思い出していた。
月の御屋敷の壁には、アーサーの妹フローラの写真がたくさん飾ってある。彼氏だったレイターと一緒に写っているフローラは、どれもいい表情をしていた。
写真を見ながらアーサーは言った。
「妹のフローラとティリーさんは似ているんだ」
二人の顔立ちは似ている感じがしない。
ティリーはかわいい。
写真で見るフローラは、かわいいというより綺麗だ。
でも、研究所のジョン先輩もティリーと似ていると言っていたから、おそらく話す雰囲気とか、そういうものが似ているのだろう。
「レイターは、フローラとティリーが似ているから好きなのかしら?」
アーサーは首を少し傾げた。
「私が指摘したが本人は認めていない。そもそも似ているという意識がないようだ」
「無意識下の選択というわけね」
「私は一度、ティリーさんを父に会わせたいと考えているんだ」
アーサーが子どものように楽しそうな表情をした。
「チャムール、協力してくれるかい?」
「もちろんよ」
* *
「実は、ティリーにお願いがあるの」
チャムールがわたしの顔をじっと見て言った。
何か頼みがあってわたしを待ってたんじゃないか、という予感はしていた。友だちの頼みを断る理由はない。
「何?」
「アーサーの家に来て欲しいのよ」
「えっ、月の御屋敷に?」
チャムールの突然の申し出に驚いた。
将軍家のお住まい、月の御屋敷。
要塞でもあり一般人が入れる場所ではない。恐れ多い一方で、興味はある。
レイターが住所登録している家。
レイターが暮らしていた家。
レイターがアーサーさんの妹さんと婚約していた家。
「どうかしら?」
「い、いいけれど・・・」
「来月、将軍の就任ニ十周年を祝うパーティーがご自宅で開かれるの。私、呼ばれているんだけど、ティリーがレイターと一緒に来てくれたら心強いわ。レイターに聞いてみてくれない?」
「う、うん。今からフェニックス号へ寄ってみよっか」
自宅近くのステーションから、チャムールと空港行きのライナーに乗った。
*
チャムールと一緒にレイターに相談しようと思ったのに、
「ごめんなさい、ティリー。時間が無いの、あとはお願いするわ」
と、チャムールは土星行きの定期便に乗って帰ってしまった。
まあいっか。わたしは、その足でフェニックス号へ向かった。
「おや、ティリーさん。俺に会いたくなっちゃったかい?」
お調子者のレイターは、いつもと変わらない軽いテンションだ。
「馬鹿なこと言ってないで。相談があってきたの」
「相談?」
マザーが淹れてくれたおいしいコーヒーを口にする。お茶うけに貝殻の形をしたマドレーヌが出てきた。
このスイーツが食べられるだけでも、ここへ来た甲斐はある。
「チャムールから、将軍の記念パーティに誘われたのよ」
「ああ、うちでやるやつか。ティリーさん、あんなの行きてぇのか?」
レイターが不思議そうな顔をした。 (3)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」