銀河フェニックス物語<出会い編> 第一話 永世中立星の叛乱 (17)
第一話のスタート版
永世中立星の叛乱 (16)
警察官にその場で簡単に事情を聴かれた。
名前と連絡先、銀河連邦のソラ系から出張で来たと伝えたら、それで聴取は終わった。
フレッド先輩は本社へ連絡を入れると言って、足早にホテルへ帰ってしまった。
レイターは手慣れていた。
事務的に警察の書類にサインをしている。
ボディーガードという仕事だからだろうか、人を殺害したと言うのに動揺した様子もない。
これまでにも彼は人を殺したことがあるのだろうか。
*
レイターと一言も口を聞かないままエアカーでフェニックス号に戻った。
“銃乱射事件が発生”というニュースが居間のテレビで流れていた。
さっき歩いていた八ノ丸の歩行者ロードが映っている。硬化ガラスが割れ無残な姿をさらしていた。
モニターに目が吸い寄せられる。
ビルの屋上から男が歩行者ロードに向けて無差別に銃を乱射した。
五人の負傷者が出たが命に別状はない。
男は大型銃を所持しており、その場で警備員に射殺された。
警備員の対応により被害の拡大は防がれた。
男の身元はわかっていない。
この警備員とはレイターのことだ。
自分の身に起こったこととは思えない。
男が倒れていた血だまりは映らなかった。テレビ局がカットしたのだろう。
マザーが出してくれたホットカフェオレを口にする。味がよくわからない。
目の前のソファーでレイターはブラックコーヒーを飲んでいた。
さすがにおちゃらけてはいない。彼は何を考えているのだろう。
わたしが衝撃を受けているのは、自分が撃たれて死んでいたかも知れない、ということではなく、レイターが人を殺したという事実だった。
頭ではわかっている。
男が先に撃ってきたのだ。警察の人も言っていた「正当防衛が認められます」と。
あの場にいた自分が一番わかっている。
なのに、男よりレイターの方が怖く感じられた。
レイターが引き金を引く。
聞きなれないレーザー弾の発砲音と共に、撃たれた男がビルから落下する。その情景がスロー映像となって頭の中に再現される。
道にできた血だまりが頭から離れない。
わたしの故郷アンタレスではこんなことは起きない。銃の所持自体が禁止されているのだ。
息苦しい。どこかへ逃げたい。
そうだ、フレッド先輩のところへ行かなくては。
本社との話はどうなったのだろう。わたしはフレッド先輩の補佐なのだ。明日のための打ち合わせが必要だ。いても立ってもいられない。
「どこへ行く気だ?」
レイターがわたしの腕を掴んだ。
「触らないで!」
わたしは反射的にレイターの手を振り払った。
「どこだっていいでしょ。ついてこないで」
「あんたを守るのは俺の仕事だ」
厄病神にはついてきてほしくない。
「なら、銃を船に置いていって」
「おいおい、ふざけんなよ」
「ふざけてなんていないわ。それができないなら絶対について来ないで。わたしは目の前で人が殺されるのは耐えられないの」
それだけ言うとわたしは走って船から飛び出した。涙が出てきて前がよく見えない。
エアポート駅からライナーに乗った。
* *
ティリーが外へ出て行くのをレイターはリビングのモニターで見ていた。ったく世話の焼けるお嬢さんだ。フレッドのところへ行くつもりなんだろう。
仕方ねぇ追いかけるか。
腰を上げると真っ赤な瞳に涙をためて訴えるティリーの顔が目に浮かんだ。「絶対についてこないで」かよ。
アーサーは何て言ってた? 暗殺協定を発動させろ、か。
「ったく、めんどくせえな」
レイターはホルスターから銃を抜くと机の上に置いた。
すぐに追いついた。
三十五ノ丸エアポート駅でティリーさんを見つけた。
少し離れて後をつける。
おいおい、どこへ行くつもりだよ。それは下り線だぜ。フレッドのいるホテルは上り線だろ。
想定外の行動にあわてて下りライナーに飛び乗った。
隣の車両からティリーさんを見張る。
下りライナーは都下へ入った。
ティリーさんはいつまでこれに乗ってるつもりかね。いい加減乗り間違いに気づけよ。
あんなに数字が得意なのに、駅の数字が増えてることに気づかねぇのかよ。
この先は治安が良くねぇ。そろそろ声をかけるか。 (18)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」