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銀河フェニックス物語<出会い編>  第一話 永世中立星の叛乱 (17)

  第一話のスタート版
       永世中立星の叛乱 (16)

 警察官にその場で簡単に事情を聴かれた。
 名前と連絡先、銀河連邦のソラ系から出張で来たと伝えたら、それで聴取は終わった。

 フレッド先輩は本社へ連絡を入れると言って、足早にホテルへ帰ってしまった。

 レイターは手慣れていた。
 事務的に警察の書類にサインをしている。

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 ボディーガードという仕事だからだろうか、人を殺害したと言うのに動揺した様子もない。
 これまでにも彼は人を殺したことがあるのだろうか。 

 レイターと一言も口を聞かないままエアカーでフェニックス号に戻った。

 “銃乱射事件が発生”というニュースが居間のテレビで流れていた。
 さっき歩いていた八ノ丸の歩行者ロードが映っている。硬化ガラスが割れ無残な姿をさらしていた。
 モニターに目が吸い寄せられる。

 ビルの屋上から男が歩行者ロードに向けて無差別に銃を乱射した。
 五人の負傷者が出たが命に別状はない。
 男は大型銃を所持しており、その場で警備員に射殺された。
 警備員の対応により被害の拡大は防がれた。 
 男の身元はわかっていない。

 この警備員とはレイターのことだ。
 自分の身に起こったこととは思えない。

 男が倒れていた血だまりは映らなかった。テレビ局がカットしたのだろう。

 マザーが出してくれたホットカフェオレを口にする。味がよくわからない。
 目の前のソファーでレイターはブラックコーヒーを飲んでいた。
 さすがにおちゃらけてはいない。彼は何を考えているのだろう。

 わたしが衝撃を受けているのは、自分が撃たれて死んでいたかも知れない、ということではなく、レイターが人を殺したという事実だった。

 頭ではわかっている。
 男が先に撃ってきたのだ。警察の人も言っていた「正当防衛が認められます」と。
 あの場にいた自分が一番わかっている。

 なのに、男よりレイターの方が怖く感じられた。

 レイターが引き金を引く。
 聞きなれないレーザー弾の発砲音と共に、撃たれた男がビルから落下する。その情景がスロー映像となって頭の中に再現される。
 道にできた血だまりが頭から離れない。

 わたしの故郷アンタレスではこんなことは起きない。銃の所持自体が禁止されているのだ。
 息苦しい。どこかへ逃げたい。

 そうだ、フレッド先輩のところへ行かなくては。

 本社との話はどうなったのだろう。わたしはフレッド先輩の補佐なのだ。明日のための打ち合わせが必要だ。いても立ってもいられない。

「どこへ行く気だ?」
 レイターがわたしの腕を掴んだ。
「触らないで!」
 わたしは反射的にレイターの手を振り払った。

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「どこだっていいでしょ。ついてこないで」
「あんたを守るのは俺の仕事だ」
 厄病神にはついてきてほしくない。

「なら、銃を船に置いていって」
「おいおい、ふざけんなよ」
「ふざけてなんていないわ。それができないなら絶対について来ないで。わたしは目の前で人が殺されるのは耐えられないの」

 それだけ言うとわたしは走って船から飛び出した。涙が出てきて前がよく見えない。
 エアポート駅からライナーに乗った。

* *

 ティリーが外へ出て行くのをレイターはリビングのモニターで見ていた。ったく世話の焼けるお嬢さんだ。フレッドのところへ行くつもりなんだろう。
 仕方ねぇ追いかけるか。

 腰を上げると真っ赤な瞳に涙をためて訴えるティリーの顔が目に浮かんだ。「絶対についてこないで」かよ。
 アーサーは何て言ってた? 暗殺協定を発動させろ、か。

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「ったく、めんどくせえな」
 レイターはホルスターから銃を抜くと机の上に置いた。

 すぐに追いついた。
  三十五ノ丸エアポート駅でティリーさんを見つけた。
 少し離れて後をつける。

 おいおい、どこへ行くつもりだよ。それは下り線だぜ。フレッドのいるホテルは上り線だろ。

 想定外の行動にあわてて下りライナーに飛び乗った。
 隣の車両からティリーさんを見張る。

 下りライナーは都下へ入った。
 ティリーさんはいつまでこれに乗ってるつもりかね。いい加減乗り間違いに気づけよ。
 あんなに数字が得意なのに、駅の数字が増えてることに気づかねぇのかよ。

 この先は治安が良くねぇ。そろそろ声をかけるか。        (18)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」