見出し画像

銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第五話 掃き溜めに姫君(上巻)

<出会い編>第一話からの連載をまとめたマガジン 
<ハイスクール編>マガジン
第三話「秘密の音楽室」と第四話「家出してから帰ります」のこと

 学校帰り、ロッキーはレイターに連れられて、月の御屋敷を訪れた。

 お屋敷の横はいつも通っている。だけど、門の中に入るのは初めてだった。
「すっげ~、広いんだな」

n210少年ロッキー2後ろ目驚く

 オレは感嘆の声を上げた。さすがは名門将軍家だ。
「ああ、困ったもんだ」
「困る?」
「俺以外、みんな車だからいいけどさぁ。歩くのかったるいぜ」
 レイターの言う意味はよくわかった。

 門からお屋敷までずいぶん遠い。

 けど、森を抜けてきれいに手入れされた庭園の横を歩いていくと、かったるい、というより気持ちいい。
「毎日、ただで散歩できると思えばいいじゃん。中央公園の庭園なんて金とるんだぜ」
「そうか、ここ公開して金をとればいいんだ」

14レイター制服ウインク@

 レイターの目がキラリと輝いた。そういうつもりで言った訳じゃないんだけどな。

 レイターは歩きながら、思わぬことを口にした。
「花の手入れも結構大変なんだぜ。そこのブロック、先週、害虫が出て俺が全部手で取ったんだ」
「お前が?」
「ああ」
 こいつ居候だから、いろいろ手伝わさせられているんだろうか。

 と、突然、
「フローラ~!」
 レイターが大きな声で名前を呼んで手を振った。

 花畑のベンチに少女が座っていた。すっげーかわいい。

n202フローラ正面水色@微笑

 少女はにっこり笑うと軽く手をあげて応えた。

「お前、あんなかわいい娘と知り合いかよ。うらやましすぎるぞ」
「いいだろぉ」
「あの子、誰だい?」
「この城の姫君だ。アーサーの妹さ」

 天才少年に妹がいるという話は、聞いたことがある。

 確か身体が弱くてずっと自宅で療養しているはず。でも、その少女は元気そうに見えた。

「後で、俺の部屋に来いよっ」
 レイターの誘いに、少女はうなづいた。

「お前、あの娘にも手を出したのか?」
「あん?」

 レイターははぐらかすような顔をした。
「おい、答えろよ」
「難しいこと聞くなっ」

はたく制服

 そう言ってあいつは、オレの頭をはたいた。

 は? 何なんだこいつの反応は。
 女と見れば、ナンパして、朝帰りしてるくせに。
 やっぱ居候だから、気を使ってるのか。相手は姫君だもんな。

 ようやく玄関に着いた。

 近くで見ると、ますます威厳のある建物だ。
 月への移住が始まった数世紀前に、トライムス家が地球で住んでいた古城をそのまま移設した、って話は有名だ。

 レイターは正面玄関を素通りすると、裏口から屋敷の中へ入った。
「玄関から入るの、面倒くせぇんだ」

 食べ物のいい香りがしていた。厨房につながっている。
 レイターは手を洗うと、テーブルの上にあったポテトフライをキッチンペーパーにくるんだ。

「レイター! 何してんだい!」」
 年輩の女性が大声で怒鳴った。

バブ後ろ目口開け怒り

「汚い手でさわらないでおくれ!」
「くそばばあ、手は洗ったよ」
また、つまみ食いかい
「客が来てんだよ」
「客?」
「お、おじゃまします」
 オレはあっけにとられながら頭を下げた。女性はジロリと俺をにらんだ。こ、怖い。

「レイターのお友達かい」
「ロッキー・スコットと言います」
 とりあえず自己紹介した。とにかく迫力のある人だ。
「この子とつきあってるとバカがうつるよ。フン」

 それだけ言うと女性は、厨房の奥へと引っ込んでしまった。
「あっかんべ~」
 その女性に向けてレイターは舌をだした。こいつ、まるで子供だ。

 レイターの部屋に入って、びっくりした。
 床に足の踏み場がない。オレの部屋もほめられたもんじゃないが、ここまでひどくはない。本やら服やらゲームやらプラモデルやらとにかく散らかっている。

 レイターは、ベッドの前の床にあったものを足で押しやり、空間を作るとそこにフライドポテトを置いて座った。
「最新版だぜ、ほれ」
 レイターが家庭用ゲームソフトのケースを差し出した。

 きょうは発売前のゲームで遊ぶために、このお屋敷へきたのだ。    中巻へ続く

<出会い編>第一話からの連載をまとめたマガジン 
イラスト集のマガジン

この記事が参加している募集

宇宙SF

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」