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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(19)

アーサーがアレクサンドリア号に戻ると捕獲した敵機の周りに隊員たちが集まっていた。
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<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」
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「コルバ、よくやったな。ひやひやしたぞ」
 初任務の興奮が冷めないままアレクサンドリア号へ帰還すると、アレック艦長が僕を出迎えてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「正式採用してやるよ」

「え?」
「うれしくないのか」
 背筋が伸びたまま身体中の筋肉が固まってしまった。正式採用はうれしい。けど、後ろめたい気持ちに襲われる。領空侵犯機への対処は自分一人の力で成し遂げたわけじゃない、レイターがいたからできたのだ。とはいえ、正直に言うわけにもいかない。秘密にすることをレイターと坊ちゃんと約束している。
「う、うれしいです」
 声が上ずった。
「じゃあ、死ぬ気でがんばれ」
「ハ、ハイ!」

 格納庫はいつも以上に騒がしい。係留されたアリオロン機の検査やパイロットを捕虜とする手続きやら作業が進められている。
「おい、レイター、敵機から離れろ!」
 レイターが怒鳴られる声が聞こえた。いつの間にか僕の機体から降りて喧騒の中に混ざっていた。
「アリオロン機なんて初めて見るよ。すげぇ」
 興奮した甲高い声。僕といる時よりも幼く見える。
「子どもは早く寝ろ」
 ハミルトン隊長と会話する様子はまるで親子だ。
「観艦式すごかったぜ。俺も『びっくり曲芸団』に入れてくれよぉ」
「十年早いんだよ。ちゃんと勉強して大人になってから言ってこい。コルバ、お前は戦力だからしっかり働けよ」
「ハ、ハイ」
 突然、名指しされた僕は飛び上がるようにして返事をした。

 僕はこっそりとレイターを自室に呼んだ。気になっていたことがある。小さな声で聞いた。
「なあ、レイター。レーザー弾を撃ったのって、君?」

 レイターは大きな目を丸くして僕を見た。
「はあ? 何言ってんだよ。あんたがやったじゃねぇか」
「あの時、怖くて僕は指が動かなかったんだよ。だけど、発射してて、びっくりした。しかも、僕が狙っていたケーブルじゃないところへ弾が飛んだんだ。あの時、君が後部座席へ操縦権を切り替えて撃ったんじゃないのかい?」
「バカなこと言うなよ、あんたの指が震えてずれたんだろ。そうだ機体のログを見てみろよ」
 僕の机の上にある業務端末をレイターが操作した。航行ログのページをきょうの日付で検索する。細かい数字の羅列が浮かび上がる。
「ほら、ここ見てみろよ。ちゃんと前方座席から撃ってるじゃん」
 レイターが指をさす点を見る。ログを読むのは結構大変だ。宇宙船お宅のレイターは随分と手慣れている。数字をじっとみて頭で変換する。確かに僕が発射スイッチを押したことを示していた。
「ほんとだ。僕がやったんだ」
「な、あんたがあの王子とやらの命を救ったんだよ。自信持てよ。あんたに感謝状が贈られるらしいぜ」
「僕が王子を救った」
 口にすると奇妙な高揚感に包まれた。人の役に立つ、人に感謝される仕事。コクピットで感じた恐怖が上書きされていくように感じた。
「正式採用されるんだろ」

「レイターは情報が早いね」
「へへん」
 その時、僕は大変なことに気が付いた。
「このログが残っていたら、君が搭乗していたことがばれちゃうよ。僕の採用が取り消されちゃうんじゃ」
「大丈夫さ。アーサーが書き換えてくれた」
「え?」
 目を細めて確認する。レイターが後部座席に乗っていた情報がすべて消去されている。航行ログの書き換えって、簡単にできるはずないのに。すごい、さすが天才だ。
 ということは、誰が撃ったか改竄することも可能だ……僕の頭にぼやっと不安が浮かんだ。その考えが固まる前にレイターが僕の肩を叩いた。
「コルバ、給料上がるんだろ。俺におごれよ」
「あ、ああ。もちろんいいよ」
「次の停留地でアイス三段積みな」
「わかった、わかった」
 僕は、不安に思ったことが何だったか忘れてしまった。まあいいや。大事なことならいつか思い出すだろう。     (20)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」