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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(17)

ハヤタマ殿下がソラ系の美術大学で実技の試験を受けている時、付き添いの王妃に思わぬ伝令が飛び込んできた。
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<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」
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 アリオロン軍が通告なくフチチを侵攻。自衛団による戦況は厳しい状況である、と。
 王妃はその足で銀河連邦評議会議事堂へと向かった。
「フチチへ連邦軍の派遣をお願いいたします」

 評議会事務局へ要請を入れたが、反応は鈍かった。
「状況を確認中です。王妃と王子は連邦で保護いたします」

 二人に与えられた宿は豪勢なホテルのスイートルームだった。辺境のフチチでは考えられないほどサービスが行き届いている。希望したものはすぐに用意された。
 けれど、何よりも手にしたい情報は一向に得られなかった。家族や知人との通信回線もクローズしている。ローカルニュースも機能していない。
 ハヤタマは震える指で情報ネットワークのサーチをかけ続けた。掲示板から零れ落ちる真偽不明の情報を漁る。フチチが苦戦しているのは間違いない。軍と呼べるほどの組織はないのだ。それでも父たちはレターナ地区でタロガロ軍を打ち破ったという。母と手を取りあって喜んだ。それが、最後の吉報だった。

 連邦軍は動かず、フチチは占領された。
 王妃は王家の人脈を使ってタロガロがなぜ不可侵の密約を破棄したのか調べた。わかったことは、アリオロン同盟が欲していたのはフチチではなく鮫ノ口暗黒星雲ということだ。これはフチチの問題ではなく、連邦全体の脅威だ。
 王妃は極秘裏に連邦評議会と交渉し、連邦軍がフチチ奪還に動くことの承諾を得た。 

 ハヤタマがフチチへ帰還したのは一年後のことだ。緑の美しい大地は無残に焼き尽くされていた。焦げた黒い農地の至る所に、戦車や戦闘機の残骸が転がっている。
 父も兄も姉も戦闘で命を落とした。反粒子爆弾の威力は圧倒的で、遺体も遺品も何も見つからなかった。合格した美大は辞退した。母殿はフチチ十四世となり、自分は王位継承権第一位になった。
 フチチには何の落ち度もない。連邦とアリオロン同盟の境に位置した。ただ、それだけの理由。これは代理戦争だ。
 連邦軍がフチチを奪還したとはいえ、前線であることは変わらない。連邦軍が常駐しフチチ軍は兵力を増強した。

 デジタルボードの中に兄姉の肖像画が残っていた。幸せそうに微笑んでいる。ハヤタマは自分が描いた二人の笑顔を自らの手で真っ黒に塗りつぶした。
「フチチをこの暗闇から再建させます。その時にまたお会いしましょう。兄殿、姉殿、われをお守りください」

**

 観艦式は閉会した。領空侵犯機の事案は招待者に知られることなくフチチ軍と連邦軍で処理を終えた。
 観閲艦空母はフチチの首都惑星の宇宙空港へと着陸し、満足げな顔をした一般客がふねのタラップから地上へと降りていく。
 軍民共用空港の周りには田園地帯が広がっていた。鮮やかな緑のパッチワークが地平線まで続いている。温暖な気候と人の手が作り出した芸術。前線であることが嘘のようだ。

「見事なもんですな。それに空気がうまい」

 甲板に立つバルダン軍曹は感心しながらアーサーに話しかけた。
「ほんとうに美しい星です」

「トライムス! 見事であろう」
 背後から大股で近づいてくる足音がした。僕は姿勢を正した。 
「ハヤタマ殿下、お身体は大丈夫ですか?」
われは軍人よ。あれしきのこと何でもないわ」
「おみそれ致しました」
 僕は軽く頭を下げた。
「あやつを捕まえたのはわれだ。今回は連邦に身柄を引き渡すことにしたが、奴の情報はすべて共有せよ。トライムス、わかったな」
   (18)へ続く

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