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銀河フェニックス物語<少年編> 流通の星の空の下(1)

この物語は、レイターとアーサーが十二歳。出会って一か月後のお話です。
銀河フェニックス物語 総目次
【少年編】のマガジン
第二十話「バレンタインとフェアトレード」

 コンテナ牽引船の操縦席に座ったアーサーは、耳をふさいだ。
「なあ、ちょっとでいいから操縦させてくれよ、なあ、なぁ。あんたより俺のが絶対上手いぜ」
 隣の助手席に座るレイターが、とにかくしつこくてうるさい。

 その日、料理長のザブリートさんが、レイターを連れてデパ星系へ食料の買出しへ出かけることになり、僕は操縦士として付いていくことになった。
「駄目だ! 君は無免許なんだぞ」

後ろ目やや口開く

 交通法規に違反したら、僕が責任を問われる。

「ケチ野郎」
 口をとがらせるレイターに、ザブリートさんが声をかけた。
「お前、操縦士になりたいなら、アーサーの操縦を見て勉強しろよ。アーサーは艦で一、二を争う腕の持ち主なんだぞ」
 僕は、実戦に出たことはないが、戦闘機訓練の成績はいい。

「こんな、下手くそな操縦見てられっかよ」

 ザブリートさんが笑いながら言った。
「ほんとにガキだな。そんなに操縦席に座りたいなら、後ろのコンテナの操縦席にでも座ってこいよ」

ザブリート笑顔

 牽引される後部のコンテナには、積み替え時に使う簡易操縦席がついている。

「そうだな、アーサーの操縦見てるよりましだ」
 レイターは席を立って、後ろのコンテナへと移動した。

 船内が静かになる。

 コンテナの操縦席は、こちらが牽引している間は動かすことは出来ない。
 それでも彼にとっては、操縦席に座ることが嬉しいのだろう。

「あいつ、操縦士にあこがれてるんだよなぁ。料理人としていい才能があるんだが、もったいない」
 ザブリートさんがつぶやいた。



 デパ星系の朝市は有名だ。
 僕は、朝市という場所を訪れるのは初めてだった。

 雑多な露店が所狭しと並んでいる。
 鮮魚や野菜など生鮮食品が屋外に陳列されており、衛生面は大丈夫なのか、少々気になる。

レイター少年とアーサー市場

 見たことも聞いたこともない動物の肉。鮮やかな原色の果物。
 多くの人が行き交い、売り子のダミ声に思わず振り向く。
 活気に釣られて気分が高揚する。

 こうした精神状態で買い物をするのは、気持ちいいかも知れないが、散財してしまう危険があるな。

「ここのエラの色をよく見ろよ」
 ザブリートさんがレイターに魚の見極め方を教えている。勉強になる。レイターも真剣に聞いている。

12横顔@前目真面目逆

 彼の興味を惹いている時の顔だ。この顔をしている時の彼は、ほぼ一発ですべてを覚える。
 料理人として才能がある、とザブリートさんが言うのは間違いないのだろう。

 値切り交渉はザブリートさんより、レイターの方が上手だった。

「うわあ、この魚、鮮度いいねぇ。エラの色がいい」
 さっき別の店で、ザブリートさんに教えてもらったばかりだ。

「ほお、坊主、お目が高いな」
 ねじり鉢巻をした店員が、にこやかにレイターに声をかけた。     (2)へ続く

<出会い編>第一話のスタート版
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」