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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編>最終話 花は咲き、花は散る(6)

銀河フェニックス物語 総目次
<ハイスクール編>マガジン
・「花は咲き、花は散る」(1) (2) (3) (4) (5)

 テッド先生はフローラのベッドに静かに近づくと脈をとろうとした。
「触るな!」
 レイターは先生の手を振り払うとベッドに飛び乗り、フローラの体を抱きしめた。
「フローラァーーーー!!!」

 フローラの魂が体から離れるのを妨げようとしているように見えた。

 しばらく彼はぴくりとも動かなかった。
 レイターの魂までもがフローラと共に旅立ってしまったかのようだった。


 そして、彼は身体中で感じたのだろう。フローラの命が尽きてしまったことを。

 そして、私は宇宙でたった一人になってしまった。

16少年前目

 自分が冷静でいられるのはレイターがうろたえているのを客観的に見ているからだろうと分析した。
 私はフローラを失うことを、妹が生まれた日から知っていたのだ。
 しかし、レイターが知らされたのは三日前。彼が正気を保てないのは無理もない。

 私はこの日が来ることに備えていた。この孤独に耐えなければならないと、昔から自分に言い聞かせてきた。
 その時が来ただけだ。その時が来ただけなのに、なぜ、こんなに苦しいのだろう。

 フローラを抱きしめているレイターの姿が瞼に浮かんだ。
 いけない、また白昼夢を見てしまう。感情を制御しなくては。


* *


 ロッキーは気が重かった。
「この度はご愁傷様でした、ってちゃんと言うのよ」
 出掛けにお袋が俺に言った。
「それから、あなたはいつも一言多いから気をつけなさい。あの子も今日は参っているだろうから」
「ああ」
 お袋がレイターに気を使った発言をするのを初めて聞いた。

正面かっちり一文字眉怒り

 フローラが倒れて昏睡状態になったと聞いたのが三日前、そしてけさ息を引き取った、とさっき連絡をもらった。

 この週末に楽しい結婚式を挙げたばかりだったのに、何だか悪い冗談にしか思えない。
 でも、なぜかオレはこうなることを予感していたかのように落ち着いていた。

 フローラは自分の命が残り少ないことを知っていたんじゃないだろうか。
 あわてて駆け込むように行われた結婚式。フローラの覚悟を感じた誓いのキス。
 微妙な違和感の理由がほどけていく感じがした。


 レイターの家、というか将軍家の月の御屋敷についた。
 ドアを開けてくれたバブさんの目が真っ赤だった。
「こ、この度はご愁傷様で」
 オレはとにかく挨拶をした。

「レイターはお嬢さまの部屋にいるよ」
 お屋敷の中はひんやりと静まり返っていた。火の消えたような、というのはこういうことを言うのだ。一週間前に来た時と同じ場所とは思えなかった。

 フローラの部屋のドアは開いていた。いつもと同じようにこの部屋からは花の香りがした。

 レイターが振り向いた。
 レイターが制服を着てきちんとネクタイを締めているのが何だか不思議だった。
「フローラ、ロッキーが来てくれたぞ」

正面かっちり真面目

 レイターは思ったよりしっかりしているように見えた。

 フローラはベッドの上に寝ていた。この間会った時に見たウェディングドレスを着ていた。
 透き通るような白い肌だった。薄く紅が差してあって、ぞくっとするほどきれいだ。死んでいるようには見えない。
「寝てるみたいだ」
 オレは思わずつぶやいた。

 レイターはオレの手を取ると、ゆっくりとフローラの手の上に重ねた。
 フローラの手は冷たかった。そして、堅かった。
 フローラは寝てるんじゃない。もう、ここに命はない。

 レイターはそれをオレに確認させた。というかオレに確認させることでレイター自身がフローラの死を確認しているようにみえた。

 フローラの指に結婚指輪が光っていた。
 フローラがこの指輪をはずすことはもう二度とない。

 次の瞬間、レイターの身体が倒れ掛かってきた。

「おい、レイター!」
 床に座り込んだレイターをあわてて支えた。様子がおかしい。
 オレの声を聞きつけて、アーサーが部屋に入ってきた。
(7)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
イラスト集のマガジン

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」