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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編>最終話 花は咲き、花は散る(3)

銀河フェニックス物語 総目次
<ハイスクール編>マガジン
・「花は咲き、花は散る」(1)(2

 * *

 結婚式はつつがなく終わり、アーサーはほっと胸をなでおろした。

16少年正面@2

 とにかくこの日を乗り越えることが出来た。

 二人が結婚したからと言って、私たちの生活がこれまでと変わるわけではなかった。
 式の翌日から、私は月面基地へ、父上は地球の司令本部へ出勤する日常が始まった。
 フローラは疲れたのか微熱が出て、レイターが看病にあたった。二人は屋敷から出ることもなく過ごしていた。


 穏やかで幸せな日々。
 それは、幸福な夢のように儚かった。

 結婚式から三日後、異変に気づいたのはレイターだった。
「フローラが目をさまさねぇ」

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 私と父が朝食をとっているところへ、心配そうな顔をしてレイターが降りてきた。
「何だか様子が変なんだ」
 レイターの後について父と私はフローラの部屋に入った。

 フローラは静かに寝息を立てて寝ていた。
「フローラ、朝だぞ。起きろよ」
 レイターがフローラの体を揺り動かす。
 フローラは表情を変えることなく眠り続けている。

結婚式眠り

「いつもは寝てても少しは反応するのに・・・」
「レイター、もういい。主治医を呼ぶ」
 父上がレイターを制した。
 レイターが心配そうな顔で父上を見あげる。

 父上と私は急遽休みを取ることにした。
 それを聞いてレイターが動揺している。
「ジャック、あんたが仕事休むってどういうことだよ?」


 主治医のテッド先生がやってきた。
 フローラを診察する先生の眉間にしわが寄っている。

「おい、やぶ医者。頼むから何とかしてくれ!」
 レイターが泣きそうな顔をしていた。彼もただならぬ事態だと言うことに気づいている。
「栄養を摂らせるために点滴をしておきますが、もうこれ以上のことはできません」
「は?」
 レイターが間の抜けた声を出した。

「ちょっと待てよ、やぶ医者。他にやることねぇのかよ」
 テッド先生は父上に
「覚悟をしておいて下さい」
 と告げた。
 父は静かに頭を下げた。

 レイターは目を白黒させて取り乱している。
「お、おい覚悟ってどういうことだよ。頼むからわかるように説明してくれよ」
 テッド先生はレイターの目を見ながら静かに言った。

「フローラはもう目を醒まさないかもしれない、ということだ」
「・・・うそだ。うそだ。昨日まで、普通だったんだぞ、俺と船に乗って、新婚旅行に行く計画立ててたんだぜ。あいつの故郷の星まで、俺が連れてくって、約束したばかりなんだ・・・やぶ医者の言うことなんて、俺は信じねぇよ」

 私は確認したいことがあり、勇気を出して口にした。
「先生、フローラの命はあとどのくらい持つのでしょうか?」
「二日、よく持って三日」
 その数字は私を動揺させた。

 そして、私以上にレイターは衝撃を受けている。
「な、何言ってんだ。ははぁん、わかった、ドッキリカメラだろ。俺が驚いてるところ隠し撮って、みんなであとで笑おうってんだろ。人が悪りぃな。そんな手に乗るかよ。フローラ! おい、いい加減、目をさませ!」
 レイターがフローラの体を激しく揺さぶった。が、フローラが目を醒ます気配はない。

 父上がテッド先生に謝意を示した。
「先生ありがとうございました」
「また、明日参ります」
 テッド先生が帰っていった。

 父上の部屋で父とレイターが向かい合っていた。
「レイター、これまでお前に何も伝えないでいて悪かった」

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「どういうことだよ」
 レイターがいらだっているのがわかる。
「フローラの命は十六の誕生日まで持つものではなかったんだ」
「は?」
 レイターは意味が分からないと言う顔をした。

「フローラは生まれた時から体が弱かった。インタレス以外の星では十年も生きられないだろうと言われていた。生物学的に寿命なのだ」
「寿命? アーサーは生きてるじゃねぇかよ」

 私を見るレイターに、私から答えた。
「私はソラ系人である父の遺伝子を強く受け継いだんだ。妹は母に似た。五年前、私がアレクサンドリア号に乗り込んだ時には、フローラと生きて再び会える可能性はほとんどないと考えていた」
 父が話を続けた。
「それでもフローラは、アーサーが戻ってくるまではと頑張り持ちこたえたんだ。お前たちが帰ってきた直後には、フローラは『もう死んでも悔いはない』とまで言っていた」
 レイターは黙って聞いていた。

 いや、言葉を発することができないでいた。  (4)へ続く

第一話からの連載をまとめたマガジン 
イラスト集のマガジン

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」