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銀河フェニックス物語<出会い編>  第一話 永世中立星の叛乱 (15)

   第一話のスタート版
       永世中立星の叛乱 (14)

「どうですかねぇ、ガロンさん。さっきの話だけれど僕たちの来期の契約は」
 フレッド先輩が話を切り出した。

「うーん。厳しいと思いますよ。ラールのご指示は絶対ですから」
「御社の売り上げにも響きますよね」

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 先輩の言葉にガロン技師長はため息をついた。
「そうなんですよ。詳しくはお話できませんが銀河連邦系の仕事を減らしているんです」

「永世中立はどうなっているんですか?」
「・・・・・・」
 ガロン技師長は答えない。
 運転しているレイターがチラリと後ろを気にした。

 フレッド先輩が続けた。
「御社の素晴らしい技術はどんどん活用すべきです」
「ありがとうございます。現場の僕たちはお受けしたいんですよ。ここ最近、ラールシータの高重力産業は宇宙船と建築以外は低迷していて、僕たちがこの星を支えているという自負があるんですけどね」

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  誰にも話を聞かれないエアカーの中だから気が緩むのだろう。ガロン技師長は本音を話し始めた。

 フレッド先輩はさすがトップセールスマンだ。

 ガロン技師長によると、重力制御の技術は近年ラールシータ以外でも進んできて、わざわざ辺境まで来るのは宇宙船のような大きな製品に限られてきているのだと言う。
 そのためラールシータの国力が落ちて星内格差が広がっている。
 
「でも、私どもにとってラールの指示は絶対ですから仕方ありません」
「異議を申し立てられないんですか」
「異議を申し立てる場所が無いんです。ラール王室が全てを決めるのでこの星には議会も裁判所もないんですよ」

 話を聞いていたレイターが口を開いた。
「国民議会求めて学生運動が盛り上がってんだろ?」

 ガロン技師長は答えるのを躊躇している。
 独裁のこの星で学生運動が盛り上がっているなんて知らなかった。

 チューブ道路の外を代わり映えのしない茶色い平原の景色が流れていく。
 わたしもフレッド先輩もガロンさんの次の言葉を待った。

 車内の沈黙に押されるようにガロンさんはゆっくりと話し始めた。
「そうです。僕の弟も運動に参加しています。両親はびっくりしていますよ。教皇に逆らうなんて天罰が下ると言って。でも、先日、一律税導入の勅令が出て、若者はみんな我慢ができなくなっています。デモで異議を唱えるしかない。この星の何かが狂ってきているんです」

 一律税というのはお金のある人にも無い人にも一律にかけられる税金で、景気の低迷と重なり、王室に対する反対運動が一気に盛り上がったのだという。
 この星始まって以来のことらしい。

 ドーム市内が近づいてきた。エアカーは白いガスを越えて重力フィールドの中に入った。

 市の中心部、二ノ丸にあるガーディア社は十階建てだった。
 五十階建ての神殿を除くとこの星ではかなり高い建物だ。

 一ノ丸が神殿と行政。
 二ノ丸には高重力産業の企業が集まっている、とガロン技師長が教えてくれた。
 スーツを着た人が行き交うビジネス街の様子はソラ系に似ている。星が荒れているという雰囲気は感じられなかった。

 では明日、ここで十時に、と言ってガロン技師長と別れた。

 ガロン技師長を送った後、わたしたちは八ノ丸にあるフレッド先輩が泊まるホテルへと向かった。

 エアカーを停め、硬化ガラスで仕切られた歩行者ロードを三人で歩く。

「流石だな厄病神は」
 フレッド先輩はレイターに嫌味を言った。

s18歩き@フレッド中心

 来期の予約は取れないし、政情不安だと聞いては落ち着かない。

 『成約率百パーセント』と『厄病神』の第一ラウンドは厄病神に軍配が上がってしまった。
「いやいや、どういたしまして」
 レイターはまるで意に介していなかった。     (16)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」