銀河フェニックス物語<出会い編> 第十九話(3) 恋と伝票の行方
・第一話のスタート版
・第十九話(1)(2)
工事の安全を祈る鍬入れ式が始まった。
ダルダさん、工場長の狐男、パキ星の経済大臣の三人が並んで立ち上がる。
わたしには意味不明のパキ語で、祝詞が読み上げられていた。
パキ語を聞くとレイターの顔が浮かんだ。
去年、レイターにパキ語で通訳してもらいながら、きのこのパキールを食べ比べたことを思い出した。楽しかったな。
あんなに大変だった出張が、今では懐かしく思える。
生きて帰れたのはレイターのおかげだ。
ダルダさんたち三人が、そろって土に鍬を入れた。
その様子を、現地のマスコミのカメラの横から、携帯通信機のカメラで撮影し、本社に送信する。
後は、報告書の作成。
鍬入れ式が終わると、経済大臣がダルダさんに話しかけた。
「フェニックスさんによろしくお伝えください」と。
*
船に戻ると、わたしはダルダさんに聞いた。
「ダルダさん。どうしてみんなレイターの話をするんですか? 狐男も大臣も」
「あれ、ティリー君。レイターから聞いてないのかい? 土地取引の話」
「土地取引?」
「レイターと仲がいいから、知ってるもんだと思ったよ。あいつ、去年、工場の拡張計画が白紙になった後、第二工場の予定地を買い取ってたんだ」
驚いた。
「よく、そんなお金がレイターにありましたね」
レイターはいつもお金がない、と騒いでいる。
「俺の金だよ」
「え?」
「俺、去年、レイターに十億リルを払うって約束したじゃないか」
思い出した。
テロリストにギャフンと言わせる代わりに、レイターの言うことは何でも聞く、という約束をした。
大金持ちのダルダさんは十億リル支払えと言われ、即答した。
わたしはキスを求められ、断った。
「あいつ、その金で、うちの社が買収できていなかった、隣の土地を買い占めたのさ」
知らなかった。
そもそも、ダルダさんが十億リルをレイターに払っていたことに驚いた。
レイターが、ダルダさんのことを金払いがいい、と言っていたことを思い出す。
「今回、俺の実家の研究所が、きのこの植え換えに成功して、工場拡張の話が本腰になったところで、この辺りの地価が急上昇した」
「それでレイターは、ぼったくったんですか?」
「と言うか、あいつ、その土地をオークションにかけたんだ」
「ひどい。うちの会社が絶対欲しい、ってわかってるのに」
腹が立ってきた。
「まあ、そうだが、狐男がうまく丸め込んだのさ」
「工場長が?」
「連邦のオークションじゃなくて、パキ星内のオークションにかけてくれって頼んだのさ。パキ内なら狐男が相手を抑え込めるからな。これで連邦オークションにかかってたら、大変だったさ」
この工場計画を潰したがっているライバル会社もいる。
連邦オークションだったら、どこまで値がつり上がったか、わかったもんじゃない。
「よくレイターが飲みましたね」
「そりゃ、狐男ががんばったのさ。金に、酒に、女にと、ガハハハハ」
要するに、レイターを接待漬けにしたということだ。
「しかも、経済振興策で税金も免除されたから、結局、あいつは三百億リルぐらい儲けた計算になる」
「三百億リルッ!!!!」
想像がつかない。
「だから、ティリーさんにディナーぐらいおごったって、罰はあたらないだろ?」
まったく、何を考えているのだろうあの人は。理解不能だ。 (4)へ続く
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