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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第九話(2) 早い者勝ちの世界

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・<ハイスクール編>第九話 (

「ようこそ、いらっしゃいませ。ジョン・プーさん」

振り向き

 声まで透き通っているように感じた。
「は、初めまして」

 レイターはさっきお嬢様を自分の彼女だと言った。つまりガールフレンドということだろうが、あまりに不釣り合いだと思った。

 レイターの図太い、というかたくましい生命力の対義語みたいな、儚さ。

 彼女はゆっくりとレイターの部屋に入り、そこが定位置であるかのようにベッドに腰掛けた。というか、座れる場所はそこしかなかった。

「寮のみんなは元気かい?」
「君がいなくなって、静かになったよ」
 僕とレイターは、運ばれてきたおいしい昼食をいただきながら、セントクーリエの近況と思い出話に花を咲かせた。

「わたしもセントクーリエで学んでみたいな」
「校内にゲーセンがあるんだぜ。ジョン・プーは下手くそでさ」
「君がうますぎるんだ!」

 時々レイターは、隣に座る彼女と目を見合わせてにっこりと笑った。

肩よせる2

 おそらく二人の間で、過去に同じ話題をしたことがあるのだろう。
 視線だけで二人が通じあっているのがわかる。

 セントクーリエにいた頃と、レイターの印象が違う。
 レイターって、こんな穏やかな少年だっただろうか。


「でさ、ジョン・プー。あんたの論文読んだんだ。ちょっと説明が聞きてぇと思ってさ」

 レイターはいつも、僕たちの研究室に来ては宇宙船について熱く語り、高校生とは思えないほど宙航力学に通じていた。大学で使うテキストの『宇宙航法概論』もそらんじるほど読み込んでいた。

 そして、ゲームが上手い彼の操縦技術は、プロ並みだった。だから、僕たちは机上で作り上げた理論をレイターのシュミレーション操縦で試す、ということを何度も行ったものだ。


 今回の僕のバローネ理論はかなり難解だ。学会で話題になるほどなのだ。さすがのレイターも自力で読むのは困難なのだろう。

 でも、彼はセンスがいいから、きっと少し説明すればすぐに全体を把握できるに違いない。
 コンピューターのモニターに映し出された僕の論文を、冒頭から説明する。

 今はまだ、理論の一つでしかないけれど、これがいつか実用化に結びついたら、船の燃費は加速的に向上する。


「ふむふむ」
 レイターはうなづきながら聞いていた。わかっているのか確かめるために、時々レイターに逆質問してみた。
「ここが、どうしてこうなるのかわかるかい?」
「わかるさ。ここの数式と同列だろ」

14レイター小@ゆるシャツ後ろ目にやり逆

 レイターは的確に答えた。僕の研究室でもこれほどクリアーにわかっているメンバーはいないんじゃないだろうか。

 彼女はレイターの横で僕の説明を一緒に聞いていた。内容はわかっていないのだろうけれど、飽きた様子もない。

 一通りバローネ理論の説明を終えた。
 僕がわざわざ説明に来なくても、レイターはわかっていたんじゃないだろうか。といささか拍子抜けしたところで、レイターが聞いてきた。
「で、さあ、聞きたいのは、ここんところ」
 論文の式を指さしながら、僕の顔をのぞき込んだ。

「どんな係数にでも普遍性があるのかなぁ」
「当たり前だろ」

横顔にっこり逆カラー

 僕は自信を持っていた。
 サパライアン教授とも議論を深めた場所だ。どの係数でも当てはまる。そこが、この式の肝といえるところだ。
「でも、マルガニ係数だと成立しねぇんじゃねぇの」
「え?」

 マルガニ係数。
 その言葉が頭の奥を引っ掻いた。嫌な感じがする。
 僕としたことが、見落としていた。心臓の拍数が上がる。汗がじわりと吹き出てきた。

 いや、数式に実際当てはめてみれば、いけるんじゃないだろうか。
「ちょ、ちょっと待って、コンピューター貸してくれ」       (3)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」