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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第二話 花咲く理論武装(1)

<出会い編>第一話から連載をまとめたマガジン 
<ハイスクール編>第一話「転校生は将軍家」マガジン

「う~むっ。わかんねぇ」
 レイターは二隻の宇宙船を書いた紙を手にうなった。

 悩みだしてから、きょうで三日目。
 どうして左の船の旋回性が上がんねぇんだろ。

16振り向きシャツ前目まじめ

 どっかで計算を間違えてる、としか思えねぇが、一体どこだ?
 物理の教師にも聞いたが、全然わかってなくて役に立たなかった

 レイターはため息をついた。
 アーサーに聞けば一秒で誤りを見つけ出すだろう、ってわかってる。

 だが、できればあいつには聞きたくねぇ。

 もう一度紙を見つめる。
 ダメだ煮詰まってる。気分転換が必要だ。

 レイターは紙を机の上に置くと、窓を開けた。
 外は少し風が強い。花の香りが部屋の中へ吹き込んできた。


 ここ、月の御屋敷ってところは、連邦軍の要塞には見えねぇ。窓の下に花園が広がっている。

 アーサーの妹のフローラが、庭師のアンダーソンと花の手入れをしていた。苗を植えている様子が、二階のこの部屋からよく見える。

  かわいい子だ。長い黒髪が風に揺れている。

 この広いお屋敷で、彼女と顔を合わせることはほとんどない。アーサーの奴が、俺と彼女をあわせないようにしてるんじゃねぇかと勘繰る。

16少年正面@2

 とその時、
 窓から入ってきた風が、机の上にあった紙を吹き飛ばした。

「あっ! やべ」
 紙が風に乗って、窓から外へ飛んでいく。

* *

「あっ! やべ」
 という声が聞こえてフローラは振り向いた。

 窓から白い紙が、こちらへ向かって飛んでくるのが見えた。

振り向き逆長袖やや口

 レイターが二階の窓から飛び降りようとしていた。

「止めて!」
 思わずフローラは叫んだ。
「種が・・・」
 レイターを心配したのではなかった。あの窓の下には、まだ芽の出ていない種が植えてある。

「あん?」
 フローラの声が聞こえたのか、レイターは花壇をよけ、不自然な形で着地した。
「痛ててて・・・」


「お嬢様」
 アンダーソンが窓から飛んできた白い紙を拾い、フローラに手渡した。
 二隻の船の絵と計算式が書いてある。
 初めて会った時、『銀河一の操縦士』になるのが夢だ、とレイターが自己紹介していたことを思い出した。

「いやぁ、悪りぃ悪りぃ」
 レイターが大急ぎで走ってきた。ちゃんと花が植えてあるところをよけているのに、フローラは気づいた。

「拾ってくれて、ありがとな」
 レイターはにっこり笑って紙を受け取った。

正面笑い

 気持ちのいい笑顔だ、とフローラは思った。

 紙を見て気づいたことがある、伝えた方がいいだろうか。フローラは迷いながら声をかけた。
「あの」
「あん?」
「初期値が・・・」
「え?」
「カロック原理の演算アルゴリズムが違ってます」

 レイターは驚いた顔でフローラを見た。

 そして、紙に目を落とした。
 指摘された途端に見えてきた。アルゴリズムの設計が間違っている。いくら計算してもうまくいかないはずだ。

「あんた、宙航理論わかるのか?」
「家に本があるので少しは・・・」

 レイターは興奮していた。
 そうか、彼女もアーサーと同じように知能が高いインタレス人の血を受け継いでいるのだ。
「な、なあ、俺に教えてくれねぇか、宙航理論」

 先週出た最新の論文に理解できねぇところがある。アーサーに聞こうか迷っていたが、多分、彼女ならわかる。

「あ、あの。きょうはこれを植えてしまいたいんです」
 苗を手にフローラは言った。
「俺が手伝ってやるよ」
 レイターの申し出を、フローラはやんわりと断った。

「申し訳ありませんが、急ぐ必要はないんです。命があるものですから、丁寧に植えたいんです」
     (2)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」